2017年のmusipl.comでの2月アクセス数上位10レビューはこちら!


 
1位 緑黄色社会
『またね』
 焦点を絞るというのは意外に難しい。バンドメンバーが4人いれば4つの個性も価値観も自己主張もあるわけで、それを交通整理して誰かの欲求を抑えてまで誰かを前に前にと押し出すよりは、1/4ずつの想いをちょっとずつ小出しに民主的に作品を作った方が楽だし楽しい。だがそれはスタジオの中だけの身内にとっての楽であって、音楽を共有するはずの聴衆にとっての楽しさではない… (レビュアー:大島栄二)
 

 
2位 Su凸ko D凹koi
『店長、私バイト辞めます。』
 日常の歪みに慣れきってるくせに「俺が取り扱うテーマ、問題、事件が無い」って、外野の騒ぎを嗅ぎ回ってるラッパー大っ嫌いだよ!それに引きかえ、すっとこどっこいの歌う一つ一つが「それな!」と膝を打つ胸を打つ。20年前ミスチルの『トゥモローネバーノウズ』を聴きつつ「まだ歌になってない問題は無いのでは?」と、鋭いこと言った風に自己満足に浸ったオダ君、やがてラッパーになった彼を思い出した… (レビュアー:北沢東京
 

 
3位 脇田もなり
『IN THE CITY』
 2016年の秋に東京に行って一番驚いたのが、渋谷駅東南の歩道橋の上から山手線のホームが見えたことだった。東横線が東京メトロと直結し、地下化したのに伴って2階にあったホームが撤去される。そのことは知識としては知っていたものの、久しぶりに行った東京であの歩道橋から山手線のホームが実際に見えた時はけっこう衝撃だった。街は生き物であるし、再開発が著しい東京の中でも特に変貌のスピードが速い渋谷で… (レビュアー:大島栄二)
 

 
4位 ASIAN KUNG-FU GENERATION
『夜を越えて』
 “あじかん”に命を救われたことがある。
 濃霧が降りた隣国の都市で、接待というか、或る種、惰性的な儀式のなかで「日本の歌を」となったときに、片言で”ア・ジ・カ・ン”と言ったアンニュイな女の子が居た。カラオケ店名は「青く澄み渡ってこれ以上ない」みたいな普通話だったが、日本人の客は少なく、たまたま、オーガナイズしてくれた方に連れられるままに … (レビュアー:松浦 達
 

 
5位 POLTA
『エンド オブ ザ ワールド』
 POLTAこそ、ザベストテン以降の時代を思い起させる昭和歌謡ロックバンドなんじゃないかなあと勝手に思います。このMV、今年の1月6日に公開されて、「1ヶ月で1万回再生」を目指していたそうです。おお、今日じゃないかその1ヶ月の期限は! 多少は貢献できるとかできないとかはまああるし、貢献しなくても別にいいんだけれども、みんなもっと知った方が良いっすよ。1000以上のレビューを重ねてきて… (レビュアー:大島栄二)
 

 
6位 私の思い出
『荒野のネッカチーフ』
 このアホさ加減は一体なんだろうか。キライではない。キライなんかではない。いや、好きだ。かなり好きだ。とっても好きだ。愛や恋や世の中の矛盾を歌うという行為には誰も後ろ指を指すことの出来ない正当性みたいなものがみなぎっていて、だからなんか優等生的で、いいんだけれども、いいんだけれども。このバンドのこの曲はそういう優等生的な何かとはカウンターカルチャーのような、何故それを真面目にやる必要が… (レビュアー:大島栄二)
 

 
7位 正山陽子
『旅立ちの歌』
 歌にのるものとしては別としては、残酷にしてセクシュアルな歌詞だと思う。  それ以上の称賛も、それ以下の修整もなく、この彼女の言葉が「届かない」瀬はまるで今の過度なまでの規制と保身のあいだで宙空化し、安定しないポリティカル・コレクトネス(PC)の正鵠を射るような気がする。からして、せめて意味だけは翻訳機によって勝手に流浪しないように、との思いを込めて。せめて、ここでもどこでもない… (レビュアー:松浦 達
 

 
8位 大橋トリオ
『The Day Will Come Again』
 早いもので活動10周年を迎える大橋トリオをして、流麗で牧歌的だとか癒やし系、和み系なんて冠詞は私的には少し齟齬があって、どこか通底にどうしようもない悲しみ、慈しみの残像や、日々のなかでどうしても確実にどこかで喪ってしまう人間の持つ性(さが)や儚げな情愛の破片、欲望の箍や自意識の桎梏から少しふわりと距離を置いて、再び新しい陽射しで未来を追い越そうとしている情感が端々から… (レビュアー:松浦 達
 

 
9位 Split end
『ロストシー』
 サビのフレーズが繰り返し繰り返し。繰り返されることでイメージが膨らみつつ同時に固定する。この曲がヒットするかどうかは別としても、ヒットするには欠かせない要素をちゃんと持っているなあと感じる。歌には意味を込めることは出来るが、じゃあ意味が必須かというとそうでもなくて、この曲では歌の意味よりも言葉の響きの印象の方に圧倒的に重点が置かれているようで、それがリズムとリフレインによって強調され… (レビュアー:大島栄二
 

 
10位 CORNELIUS
『Drop-Do It Again』
 ”引き算の美”で、私的に想い出したのは、この水のあわぶく音色、絞られた言葉、枯山水(KARESANSUI)的な趣き、コーネリアスの今曲だった。映像演出の美含め、いまや彼は世界的評価の高いアーティストの一人になり、リミックス・ワークから最近ではMETAFIVEへの参加まで90年代、00年代、10年代を多様に果敢に渡り歩いてきている。しかし、元々はとても情報量の多い音楽をやっていた。フリッパーズ・ギターでの活動… (レビュアー:松浦 達
 

 
次点 小林未郁
『僕のお葬式』
 静かに淡々と歌っている。日々ロックバンドの情熱を振りまく歌に接していると、こうして淡々とした歌が新鮮に聴こえる。だが淡々と歌っているだけで内容としてはけっこう毒を含んだものを歌っている。こういうの、好きだ。表現には人間っぽい毒や暗さを含んでなければ薄っぺらくなる。いくら美しくても、薄っぺらいものはつまらない、と思う。この小林さん、アニメの曲なども多数歌ってるようで、その界隈では… (レビュアー:大島栄二)
 

 
編集長コメント

1位 緑黄色社会『またね』:先月3位だった緑黄色社会がジワジワとずーっとアクセスあって、今月は堂々の1位。レビュー公開時にわーっとアクセスが集まることは多いし、過去レビューのツイートをきっかけにアクセスが増えることも多いですけど、レビュー公開から1ヶ月以上経ってもずーっと地道にアクセスがあるのは、バンドのことをググってやってくる人が多いということの証拠でしょう。本当に今勢いがあるバンドということの証拠だと思います。

2位 Su凸ko D凹koi『店長、私バイト辞めます。』:以前から名前は聞いていたけれどもなんとなくスルーしていたら北沢東京さんがレビューしてくれて、見てみたら想像してた以上にハードで過激。表現って極めていかなければ他と同じになってしまうし、彼女たちもいろいろと削ぎ落としながら自分たちのオリジナリティを確立していったのでしょう。バンド名の凸と凹を何と読むのか、よくよく考えると理解できないのですけど、まあ直感で感じる通りのすっとこどっこいで正解なのもユニークな点だと思います。

3位 脇田もなり『IN THE CITY』:東京の風景はどんどん変わっていきますよね。再開発って、+の部分ももちろんあるんですけど、何かを根こそぎ奪っていくような切なさもあるなあと感じるんです。アーチスト活動もそれに似てて、つまり人の想いが託されてしまうなにかというものに、人は永遠性を求めるのでしょう。たとえそんなものは叶わないのだと知りつつも。

5位 POLTA『エンド オブ ザ ワールド』:POLTA、大好きです。でも僕が好きだからアクセスランクでトップになるということはまったく無くて、2月は第5位。今度レビュー記事を書こうと思ってます。仕事上の絡みは無いけど、プッシュアーチストですこれ、ホント。

6位 私の思い出『荒野のネッカチーフ』:過去レビューから火がついてデイリーランキングでも数日トップに立ったこの曲。ホント、良い曲は永遠に聴かれて欲しいものですし、このmusiplがそのきっかけになれるのであれば、やってる甲斐があるというものです。皆さんも是非聴いてみてくださいね、面白い曲なので。

10位 CORNELIUS『Drop-Do It Again』:2月には小沢健二の突然のCDシングルリリースなどもあって、コーネリアスのレビューと共になんとなくフリッパーズ月間のような印象もありました。でも、今もオザケンと小山田圭吾がフリッパーズだということを意識している人はどのくらいいるんでしょうか僕などはリアルタイムで聴いてたクチですけど、少し歳の差がある奥さんには、なんとなく知ってるけどオザケンはフリッパーズじゃなくて痛快ウキウキ通りだと言ってて、今はそうだろうなあ、そもそも若い子は「オザケンって誰?」なのかもしれませんし。そういえば小山田圭吾はNHK Eテレの番組「デザインあ」にこのあいだ出ててびっくりしました。もうなんでもアリなんだなと、やはり時代の移り変わりを感じずにはいられませんでした。

 2月のアクセスランク11位までに過去レビューが4つランクインしてて、幅が広がっているなあという印象が強いです。新譜ばかり売れるCDセールスに面白みが無いように、最新レビューだけしかアクセスされないというのもやはり面白みに欠けるんだろうと思います。そういう意味ではこういう新旧入り交じったランキングは面白いですね。最新レビューの時にはかすりもしなかった曲が数ヶ月、数年経ってからランクインするというのは、なにか敗者復活戦のような感じで、興味深いなあと思うわけです。

(大島栄二)