ぽわん『サイダーの泡、恋模様』 Next Plus SongREBECCA『PRIVATE HEROINE』

cero
『Orphans』

 かの小沢健二が持て囃された90年代半ばの『LIFE』前後の狂騒とは何だったのだろうとあらためて思う。モータウン、ニューソウルからフォークまでをオマージュ、援用しながら、日本語の響きを大事に早口にまくし立てた、「東京」という中心部への象徴記号の周縁を巡る恋人たち、会社員たち、学生たち、そして、名もなき人たちまで。彼・彼女たちは「今夜はブギーバック」で今や日本で可視化されてしまった階級制など無化して、重力を考えず躍ることが出来たのだろうと思う。現に、東京以外でも、小沢健二の“あるようで、ない”都市性は輝いていた。昨今のシティ・ポップの隆盛とは、行き場のない日常からの幻想的な何かへの架橋と想像ではないのは、このceroの「Orphans」を聴けば分かるかもしれない。この曲がどう素晴らしいか、というと、BPMのニュートラルな感じもバウンシーなリズムもそうだが、アーヴァン・ソウル・ミュージックとして、2014年のこの瀬に時差も欲目もなく、しっかり適合しているというのもある。小沢健二の時のようなユーフォリアはなし得ない瀬に、フィッシュマンズ的に日常の中の倦みに靡きながらスイングするでもなく、あくまで、“冴えないクラスメイト”、“サービスエリアで子供のようにはしゃぐ”などの描写、ティーンエイジャーの気まぐれな瞬間のための「Yes」に捧げられたともいえる曲で、こういったメロウなグルーヴには自然と体が動く。ポップ・ミュージックはまだまだ枯渇することなく、受け手の感覚を、現実を拡張せしめる。
(2014.12.19) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


   
         
 


 
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