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Blur
『Go Out』

 ブラーの12年振りの新しいオリジナル・スタジオ・アルバムが4月に出ると聞いて、即座にピンと来る人は、筆者に近い30代、40代だろうか。それとも、ゴリラズなどでデーモン・アルバーンを知った若い人たちの後追いの意識に依拠するのだろうか。以前だと、バンド・ヒストリーというのは重く、ひとつのナラティヴのようになり得たものだが、現今のようにコンセプトありきでプロジェクト的に同時多発的に始まってしまう瀬において、ひとつのバンドで続ける意味というのは、相当なねじれがある。無期限活動休止、活動終了、様々な言葉が用いられ、内部的要因のみならず、留保せざるを得ない状況でそういった言葉は用いられる。解散、というのはファンには最も痛点をつくだろうか。それでも、期間限定やトリビュートなどの形で再び歳月を重ねて活動を始めるバンドもいる。
 日本では、ひとつの例だが、ユニコーンなどはそのバランスが絶妙で、また、このブラーも近年のリ・ユニオン、活動のタイミングがいつも非常に良い。ロンドン五輪、東南アジアを含めたワールド・ツアー。ブリットポップ、クール・ブリタニアというムーヴメントを知っていても知らなくても、オアシス、ブラーの名前は識っている人は数多く居る。そして、90年代のある時期の一過性のムーヴメントとしてもファンのみならず、知っている人たち、記憶資源の支持母数が大きいバンドは何らかの形で進行形でも歓待される。
 12年振りにオリジナル・アルバムを出すというブラーという存在は、そういう意味では大文字のUKギターロック・バンドでは全くなく、「UKギターロック」という不明瞭な字義を脱臼させるように、このリード・シングルはオルタナティヴな空気感を帯びている。タイトルは、いかにもな「Go Out」。2013年の日本公演がキャンセルされた際に、寄った香港でのスタジオ・セッションをベースにしたとの通り、MVでは広東語の字幕と料理風景とチープなアニメーションが混じり合う。或る種のUK、島国的な躁性から、汎的により大陸的にローファイに振り切った1997年の『無題』を彷彿させるように、スタイリッシュさよりも、遊び心に溢れ、大きく力の抜けた曲。そこに、ミドルエイジ・バンドとしての程よいくたびれたセンスが漂う。明らかに、世の中を席巻しているBPMの速さや神経質なエレクトロニクス、過剰でオブセッシヴな音像とは雲泥の差がある。
 若手バンドでこういうことはなかなかできないという向きはあるとしても、ブラーだからこそ許されるという訳でもない。それでも、この「Go Out」が時代遅れという気がしないのも彼らのチャームだという気がする。
(2015.2.23) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


   
         
 


 
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