Zedd 『I Want You To Know』 Next Plus SongYUEY『Discovery』

中村佳穂
『BEAUTIFUL DAYS』

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 ありのままの喜びと放心が横たわっている。そう思う。それは今の世界を見るという目と神経と脳の働きを今の世界で養った人の、静かなポジティブの在り様だ。そう思う。鍵盤を弾きながら歌うこの人は1曲の始まりがあって終わりがあるという、「1曲」というスタイルを好まないのだろう。MCがあって、MCの続きの中にイントロがあり、イントロの間にもMCがあって、歌が始まる。もちろん始めと終わりというのは作品である以上当然あるのだが、じゃあ振り返って僕ら日常の会話にそういう始めと終わりがあるのかというと、多分無い。あるのは、なだらかな導入と、気がついた時にはもうそこにはいない消えたテーマだ。僕のようなオッサンが育った時代には明確な目標があって、もちろんそれは具体的な目標などではないのだけれども、明確に目標というものはあった。だから、前向きに生きていくことが簡単だった。しかしそういうものは徐々に薄れ、次第に消えていく。持とうとすれば精一杯の努力をした上で類い稀なる幸運を頼みにしなければならなくなる。生きるということはどういうことなのか。そのことを考えなければ持つことが出来ず、考えれば考えるほど虚しくもなり。でも生きていく。日々は続く。そんなことを表現する、人なのだと思う。まったくの誤解を恐れず、勝手なことを言うならば、この人は友人に呼ばれた披露宴で1曲歌うというような気持ちで歌っているのではないだろうか。作品として誰かに正しい形を提供しようとか鑑賞して欲しいとかではなく、具体的に顔が見える誰かに向けて歌うような感じの。遠い未来の輝ける自己を夢見るのではなく、今日この日のこの瞬間に目の前に現れた夕陽の紅をちゃんと愛でる、その積み重ねの先になにか確かな未来があるのではないかというような。その確かさ、具体性が、心に響くのだろう。そう思う。美しい曲だ。そう思う。
(2015.6.4) (レビュアー:大島栄二)
 


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