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Adele
『Hello』

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 歌姫というのはいつの世にもいて、日本の歌姫もいれば世界的な歌姫もいる。アデルは現時点で世界の歌姫と呼ばれる人で、まあ他にも何人かいるのだけれども、グラミー6部門受賞やレコードセールス、歌唱力などの点で、やはり現在最高の歌姫ということで間違いないのだろう。評価の決まっていないシンガーならばその歌のみで善し悪しを考える他無いが、ここまでの評価が固まっている人のことは、どうしても他の時代の歌姫たちと比較したくなる。ホイットニー・ヒューストンと較べてどうなのか。マライア・キャリーと較べてどうなのか。セリーヌ・ディオンと較べてどうなのか。時代も違う人たちと較べることの虚しさはもちろん理解しているけれども、それと較べられるということは、時代の歌姫となった人が避けられないことだろう。アデルについて僕が思うのは、過去の歌姫たちが持っていた初見のインパクトに欠けるということだ。いや、もちろんある。だが例えばマライアの、人間とは思えないほどの可唱音域が与えた衝撃は大きかった。こんな人がこの世にいるのかというような想いを過去の歌姫たちは抱かせた。しかし、アデルにそれは無い。

 だが、思うのだ。過去の歌姫の当時と現代は、世界が違うし、情報の広がり方、広げ方が違う。日本でも、世界でも、小さな音が小さな歌が居場所を見つけて独自の活動を展開している。世捨て人の群れのような様相を呈している。それは既存の音楽ビジネスやビジネスの手法との決別であり、かつてはそれと決別しては活動の場を閉ざされてしまうことから、誰もがしなかった、そしてだからこそ新しい動きなのだ。しかし既存の音楽ビジネスも素直に消滅することなど無く、才能を可能性を探して自らの存続のために必死になる。アデルは、そういう中で生まれた新たな形の歌姫なのではないだろうか。

 多くの人たちが自分だけの歌をお気に入りにする手段を持ち、そのためかつてのような知名度の集中は起きなくなった。グラミーで6部門を獲得したといっても、それを誰もが知る時代ではない。2012年以外の各賞の受賞者を記憶している人がどのくらいいるだろうか。それを思うと、やはりアデルは希有な注目を集めている人だと言えるだろう。現代のように情報が全人類に行き届かない時代に、こんな注目を浴びる歌姫は、過去のスーパースターたちと較べても遜色の無い存在だと思う。そして、初見のインパクトに欠ける、ある意味地味な音楽を発している彼女に世界の注目が集まっているというのも、今の時代を象徴していることなのではないだろうか。ブリトニー・スピアーズでもなく、ビヨンセでもなく、歌姫がアデルというのが、今の時代ということなのだろう。
 (※動画の冒頭、1分13秒はストーリーがあり、曲が始まりません。このレビューでは歌の始まりから再生する設定にしていますが、全編をご覧になりたい方は、こちらからクリックして最初から再生してみてください)
(2015.12.8) (レビュアー:大島栄二)
 


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