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中島みゆき
『麦の唄』

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 昨今、CMやカラオケで彼女の曲が再びよく脚光を浴びるようになった。そして、先ごろ、筆者は初めて実際にライヴに足を運んだが、いわゆる、一般的な曲は「麦の唄」くらいで、あとは過去や最新アルバムの中のコアな曲の構成だったが、パワフルで現在進行形のアーティストなのだということを想い知らされ、隣席の老夫婦がおそらく求めていた曲をほぼやらなかったムードを持っていたのも興味深かった。

 それでも、休憩時間を挟みながらも、およそ三時間、圧倒的な歌唱力、掌握力で場を掴む磁場は独特で、しかし、国民的歌手と平易に言い切るにはあまりに「孤然」とし過ぎている。豪華なバック・メンバーを揃えながら、熱量の高いファンに囲まれながら、凛然と立つ彼女の姿はなぜだか華やかさとは無縁の、生きて去ぬことの人間たる業(ごう)を想ったからだ。最近の歌声での少しドスが効いたスケール感とMCでの少し抜けたギャップ、まるで躁と鬱、ハレとケを行き来するように、彼女は歳を重ねて、より鬼気迫るステージングを行ない、世俗に媚びないどころか、自身と対峙し、過去と真摯に向き合い、まだ先へ進もうとする。

 メガ・ヒット曲、知名度があっても、どこかひねくれ、尖り続けながら、確実に多くの人たちの背中を押すアーティストとは考えるになかなか居ないが、それでもやはり、中島みゆきの情念、バイタリティは日本の中で渦巻く集合的な言語化しきれない無意識の言語化できない葛藤や行き場のない想いをどこか代弁するようで、突き放し、考えさせる懐の深さがあるのかもしれない。こんな世知辛い瀬に、彼女の唄はフラットにあらゆる世代の「個」の中の「弧」に満遍なく刺さる。誰もが周知の「時代」、「糸」、「地上の星」といった曲群だけでは視えない何かにこそ、これまでの轍の鮮やかさが浮かび、よりあらゆるボーダーを越えてゆくのだろう。この曲を演奏する前のMCで、「爽やかな朝に向かない私に主題歌の依頼が来て、でも、精一杯、考えて作った」という旨を伝えたのも、らしかった。一見、同じ方向をみんな見ているようで、音楽とはバラバラにそれぞれに解釈、嚥下される。そういったところがやはり美しいのだと思う。「誰とも同じ」など、ない。
(2015.12.28) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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