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くるり
『ふたつの世界』

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 くるり、そのもののアクションが目立った年ではなく、個々の活動も含め、音楽雑誌でも岸田繁氏が「地味な一年だった。」と称するように、しかし、個人事務所を立ち上げて以降のくるりの在り方はまるで、昨今のシンギュラリティを地で行くようで頼もしさを貫いていた。筆者も足を運んだ『NOW AND THEN vol.1』における、『さよならストレンジャー』、『図鑑』の再上映のようで、アシッドなまでに今の温度でどこか解体してゆくブルーズの重さに心底、痺れながら、くるりは自由度を高め、同時に、多様性を是認するバンドとしての本懐を発揮していった。ミスチルからきのこ帝国、キュウソネコカミとも対バンできるバンドなどなかなか居ない。

 でも、それがくるりでもあり、くるりとは要は、ゴダール的な『アワー・ミュージック』を旋回するがゆえに、より”アザー”に響く可能余地を示し、進んできたのだと思う。「オルタナティヴ」という言葉がどことなく、飽和してしまったあとに、大多数の感情が求められるのは誰とも同じだから、安心ではなく、誰かと違うから、不安というのが優先されるのは道理で、シリアの難民も全く知らぬ、存ぜずで居ても、自分の町に来るとなると、急に顔色が変わる。その顔色の「色」とは何なのだろうか、くるりが“色”彩の微妙さに拘ってきたことを想うと、より尚更に視えるものがある。

 まとめサイトなんかどうでもよく、彼らは「青い空の遠さと、その下で飲む麦茶の美味しさ」、「夜明けのガラス玉」、「電車と、菜の花の香り」、「小さな窓から漂うカレーの匂い」などを描き、さよなら、と、またどこかで会える、の狭間で梶井基次郎のように檸檬をあちこちに置いてきた。
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自身の事情で行けなかった『NOW AND THEN Vol.2』で、東京の知己から『Team Rock』収録の「迷路ゲーム」やりましたよ、というメッセージを戴き、胸が熱くなった。リアルタイムでアルバムに触れ、その曲もサイケなアレンジで聴いた身としてはそれだけの歳月が経ったというより、生き延びたがゆえに感触できる細部があるということなのだと思う。

 この「ふたつの世界」も京都音楽博覧会で体感したが、本当に素晴らしかった。XTCやトッド・ラングレンの一時期の躁的でキュリアスなポップネスを越えてくる分かり易いが、難しい軽やかな曲。内部には過去に彼らが影響を受けてきたエレファント6界隈からジム・オルーク、オルタナ・カントリーまでが短い時間のあいだに濃縮に煮詰められ、そこに一時期のキャレキシコが描いていたような仮想的な砂漠を都市内に忍ばせる。しかしながら、一聴では、おそらく多くの方がディーセントなチェンバーポップ調に響いてくるだろうことも含め、まるで、このMV内でひび割れる瞬間のスマホから一気に零れ出る衝動が奔流し、理性の制御を越えた形振り構わない人間としての生々しさを逆説的に醸すのがやはり、彼らの魅惑のひとつなのかもしれない、と思う。

 こういった曲を何気なく出せるバンドがこれからも転がっていき、来年、2016年に結成20年を迎えるということは本当に、美しいことだと思う。私的なことだが、ある場所からずっと出られない少年が「ハイウェイ」が大好きだったり、混乱が続くイスタンブールの友達が「Remember Me」をフラットに歌っているのを観て、感動したのとともに、客演やライヴはあれど、くるりとしてのバズが待っている来年には期待を寄せずには居られない。

  忘れないで 生まれ変わる時がきても
  心がちょっと近付いても 昨日の君のまま
         (「ふたつの世界」)
(2015.12.31) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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