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UA
『AUWA』

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 デビュー時のクールさ、そこから今に至るまでの長い過程での特異なアングラ感、前衛性と、それでも、シーンからは隠遁をしない絶妙な距離感を保ち続ける彼女の存在にはつねに唸らされる。思えば、ラジオから兎に角、流れ、街にも溢れていた1996年の「情熱」の時期。90年代後半のMISIA、宇多田ヒカルなどの登場に繋がるような、クールな和製R&Bのあのリズム感はまだ青かった自身には少し背伸びがいるくらい大人で蠱惑的で、夜の匂いがしたもので、ただ、フックの良さもあり、よく聴いたものだった。また、ライヴの現場で彼女の空気感に初めてやられたのは初年度のライジング・サン・ロック・フェスティバルでの夕暮れどき、ダヴ方向へと舵を切っていた彼女の幽玄な拡がりをもった声だった。故・レイ・ハラカミ氏がプロデューサーとなった「閃光」を経てのジャケットも見事に好戦的だった2002年の『泥棒』、円熟のポップネスが眩かった2007年の『Golden Green』、勿論、AJICOでの活動、菊地成孔とのコラボ作から、ディスコグラフィーを辿るだけでも、その時代にそぐうか/そぐわないか、関係なく、多様な音楽の中に自由に飛び込み、自由にそのときのUA像を呈示してきたことを想い知らされる。

 東日本大震災のあとの沖縄への移住から作品自体のリリース・ペースは落ちたものの、オリジナル・アルバムとしては7年振りとなる新作には、この曲のMVの断片からでも伝わるよう、色彩豊かなラブソングを主に彼女らしい生命力豊かな奔放さとともに、祈りのようなAIを想う麗しさに満ちている。“AI”と記すと、今は人工知能のことを想像してしまう人も居るだろうが、彼女の場合はLOVEでもあるが、やはり“AI”と記すしかない何かで、愛、となると重みがまた違う気がする。民謡調のものやポリリズミックに身体性を求めるトライバルな曲まで、静謐な曲もあるが、ベースに漂うのはあくまでダンス、それもハードなものじゃなく、身体の内側から自然と込み上げてくるような脈動的なもの。

  虹色の溶岩が話す 真実の伝言を聴いて
  愛は反射され見えるもの 肉体も光りの露れ
  AI AU AE AO
     (「AUWA」)

 これまでのUAに求めていた意味以上に、これからの彼女の活動の拡がりが楽しみになるこのカムバックは嬉しい。
(2016.5.28) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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