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RADIOHEAD
『Daydreaming』

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 複雑な迷路の中に碁石を置く。

 そういった表現でも事足りるだろうか、世界的に注視されているバンドのレディオヘッドの今回のアクションは周到だった。SNSを周到に用い、急な音源リリース、そして、ライヴでのアルバム曲のほぼ全ての展開から、世流を読みながら、同時に、彼らの長いキャリアの中で律儀過ぎるほどの文脈がプロモーション・リリースされ、受け取る側にも誤差がなかった。ジョニー・グリーンウッドとトム・ヨークの功績が称えられるアルバム内でもバンド・サウンドとしてしか成立し得ない曲は数多くある。グルーヴが渦巻く「Full Stop」など。

 いつかのライヴ・アルバム『I Might Be Wrong』でのアレンジメントと全く変わり、沈み込むような美しさと悲哀を孕んだ待望の「True Love Waits」もバンドとして表象されると、意味合いが全く違う。UKのバンドで、こういった方法論とサウンドメイクで世界的に認められてきたバンドは居るのか、ふと考える。

 ブリットポップ、クール・ブリタニカの中でのバンド、アーティスト勢、ブラーとオアシスのチャート競争やスーパーグラス、メンズウェアなど数多のムーヴメントが起こりながら、レディオヘッドは何だか97年の『OK COMPUTER』以降、ブリストル・サウンドとトリップホップ、プログレッシヴ・ロック、ゴシックな様式とシンクしながら、匿名性とどうにも難渋なエレクトロニクス、個々のソロ・ワークスの中で輪郭をぼやかしてきた。

 彼らへの敬意を捧げるバンドやアーティスト、芸術家、知識人は増えながらも、レディオヘッドはどこか浮世離れを余儀なくされる“ムード”があったのも事実だ。その傾向は、10年代を折り返したあたりからの意気の良いサウンドに気圧されたり、トムのソロ・ワークの箱庭的な感覚、フィルの親密なソロ、ジョニーのワールド・ミュージックへの目配せなどの差距があったのは否めない。

 しかし、このInstagramやTwitterなどのSNSを使って、2016年の温度にどうにも優しいアルバムを急遽、ドロップした彼らの嗅覚はやはり「正しい」と思う。「正しい」というのは真っ当にクレイジーだという意味で。

 小刻みのストリングス、難民への示唆を含んだ歌詞、リードの「Burn The Witch」、続けざまのポール・トーマス・アンダーソンのディレクティングの「Daydreaming」の不失観。そのまま、『A Moon Shaped Pool』というアルバムへのつながりの嫋やかさ。『The Bends』と『In Rainbows』の永い間を縫うようで、どの作品よりも柔和でダビーで、ミニマルでアンビエント且つ優美で、トムの内的心理も反映され、どこか残酷な内容に帰したゆえに、ポスト・クラシカルの匂いもこれまでのレディオヘッドの集大成にも想える要素があるが、何だか複雑な箇所に聴こえる声がトムだけではなく、洗練された靄がった空気があるのが気になる。既に、ライヴでは総花的に初期の代表曲「Creep」なども演奏されているが、この「Daydreaming」で見られるように、迷路の中で出口ではなく、入口がどこか解らなくなるような根因が彼らの醍醐味ではないか、と思う。

 ミュータントとしてとレディオヘッドは世界的なバンドとなり、同時に難破や迷路を抜けて、「入口を目指す」。ただ、作品の精度や賛否を問うのではなく、彼らが辿り着いたここから見える恬淡たる情景に想いを馳せて、ライヴを観てみるのがいいのかもしれない。
(2016.6.7) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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