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LILI LIMIT
『A Short Film』

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 LILI LIMITは本当に良いな。全体的にひねくれたサウンドだし、ひねくれた声のボーカルだし、ビデオの作り方もひねくれてるし、だけど、なのに、心に沁みるポップ。これをスタイルで分析しようと思ったって多分無理で、形式主義とか楽譜主義の人には到底到達しない領域なのだと思います。例えばこのビデオはショートフィルムという曲のタイトルにかけているのか、映像に音をアフレコするという内容になっている。朝のシーンでは鳥の鳴き声、目覚ましの音を映像に合わせて鳴らす。部屋の中を移動する足音を担当する人はひたすら足踏みをする。水を飲む音、服が揺れる音、ひとつひとつを生真面目にアテレコする。ビデオを回せば自然と収録できる音だからこんな作業は要らない、というか無駄だ。だがその無駄であるというリアリティを完全無視してクソマジメに録音しているというシーンのユニークさ、いや不気味さが曲に広がっていく。そして主人公の女性が歌い始めるのだけれども、そこでボーカル牧野純平が歌を歌ってアテレコする形になる。どちらが劇でどちらが劇中劇なのかが入れ替わる瞬間だ。こういったアイディアを誰か別の人たちがやっても、おそらくこんなにハマらないだろう。LILI LIMITという極めてひねくれた存在がいて彼らの曲に載るから、相乗効果が生まれてこんなにフィットするのだろう。流行歌とはその時代の雰囲気や空気を敏感に感じ取ってそれに最適な音楽を発するところから生まれ、それ故に時代が変わった数年後数十年後に聴いたらスーッと共感することが難しい。それとは対極の、流行などはけっしてしない曲の中に、時代の雰囲気も空気も無視して自ら立っている音楽があって、そういう曲のほとんどは同時代にも見向きもされないのだが、この曲のように、今の時代性とは関係なく受け入れられ、だから数十年後にもきっと受け入れられるようなものが時折生まれる。時代に背を向けて自ら立つことの難しさを知っている人には、この曲のひねくれた美しさがきっとわかるに違いない。
(2016.11.22) (レビュアー:大島栄二)
 


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