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うたたね
『栞』

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 うたたね、という言葉は不思議で「あの子、うたた寝しているよ。」と当たり前のように言うのと、ニュアンスを変えて「居眠りばかりして。」と言うのはその響きを全く別のものにしてしまう。また、漢字で“転寝”とすると、どこか泰然とした感じがなくなり、忙しなさをおぼえる。

 世の中に絶対がないのと同じように、つかめそうでつかめない、まどろんだ吐息をさり気なく察しそっと毛布を掛けるように、彼らの唄は、曖昧でぼんやりとした何かにこそ日々があり、繊細な優しさ、生真面目なまでの憂愁が青く揺らいでいる。抽象的なようで、誰もが感情の折り目を重ね合わすことできるショート・フィルムのようで、大仰な言葉や音楽が決してひろがっていない。ハンバートハンバート、空気公団、羊毛とおはな、みたいな柔和なサウンド・スタイルに、小野雄大のボーカルは元スーパーカーの、今も多く名義で活躍する中村弘二を彷彿とさせる前向きと諦念の間を行き交うアンニュイに耳を撫でる質感があり、歌詞から浮かぶ情景が何層にも変わって見えてくる。そこに被さってくる藤岡なつゆの淡やかな声もいい。素朴な男女の四人からなる姿を観るだけでも、こうやって何気なく楽器を持って、何気なく唄は始まったんじゃなかったのか、という当然のことを思いもし、でも、なかなかこういう佇まいを保つことは簡単なようで、できない。

 いずれ、うたたねからは起きないといけない時期が来る。そうだとしても、これからの彼らはどういった模索をしてゆくのか既に楽しみながら、今の温度も十二分に美しい。
(2016.12.19) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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