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THE CHARM PARK
『そら』

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 清々しい音楽を久しぶりに聴いた気がするとともに、こういう音楽で始められる新たな年のはじまりもいいのではないかと思う。“清々しい“という表現を変えるのならば、勝手などこかの決まり事、上意下達の従属意識を爽涼に越えるような―

 喧しく世の中では、ボーダーレスやテクノロジーがもたらす自由さ、エスニシティ等を巡っての問いが剥き身のままに投げかけられ、本来、それに応じた纏うべき衣服、理論、感受性の種類も変わりゆくはずなのだが、実際はすぐ傍の他者性への寛容や思慮への赦しの領域はより狭くなっているような気さえする。ハンナ・アレント的にいえば、赦しは素振りだけで、平等も人間関係の基礎も根本から壊れ、本来なら、その後は平等な人間関係はありえなくなり、人間の間での赦しとは、報復を断念、黙ること、看過することにすぎない(『思索日記』Ⅰ、p.5より参照)といえるだろうか。果たしてしかし、それは報復の再帰可能性までも示唆する。だから、平等という帰一性はそのままに、冷ややかな赦しの素振りへの矢印を示す。

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 THE CHARM PARKはどこか、再帰不可能性の是非(/以前)を哲学的に心の中に求め、多くの予めの或る過圧、規制なんて気にせずいればいい、と目の前の一人ひとりに向けて隔てなく歌っているところが頼もしく映る。この「そら」も私的にJASON MRAZの「REMEDY(I Won’t Worry)」に通じるポップネスとポジティヴなヴァイヴを感じながら、彼自身が敬愛しサポートとして参加する大橋トリオからのエッセンスもあり、ハーモニーや情緒の裏にはSlowdiveやThe Radio Dept.などの影が見えたり、と多彩な音楽因子が違和なく込められ、英詩、日本語詩を自在に行き交う。一聴、ウェルメイドだがしかし、散漫な印象を感じないのはどの曲の底にも流れる頑な美意識のような何かのざらついた余韻が残るからだと思う。それは、出自は韓国で、長い歳月をアメリカで過ごし、アイデンティティの再構築を繰り返してきただろう彼自身の在り方にも依拠するのかもしれない。洋楽、邦楽、ましてやジャンルなどの枠もはじめからないように、むしろ日本へ渡ってきた来し方、日本の内部にいてこその”気付き”を持つことができる不自由さと不満の中でこそ求めた音楽性の豊潤さと伸びやかな語彙がこの明け透けではない、心地良い開放感を生んでいるのだと思う。

 個でありながら、THE CHARM PARKと名乗る感覚も含めて、こういったアーティストが出てくると、冷ややかでシビアな“素振り(そぶり)”としての境目を抜けて、元来、音楽の持つ求心力をおぼえる。以前だとカウンターだったかもしれない彼のような存在がこれからの言葉を創ってゆく期待と、2017年が素晴らしい年になる予感に寄せて。
(2017.1.2) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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