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MUNA
『I Know A Place』

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 フェイク・ニュース問題の余波は続いている。その分だけ、何でもダイレクトに知ることが気分をなぞられる、まとめられるものばかりではないことに一部の人たちは気付きながら、ビッグ・データの波に埋もれている人たちが漂流化してもいる。映画や関連著書で再びよく名前を見受けられるようになったエドワード・スノーデンは現代の監視社会、情報戦争の内情の一部を世界に知らしめた一人で、今、インテリジェンスを巡る駆け引きが重要であるというのに首肯する人も多いだろう。

 世界中に張り巡らされた監視ネットワーク群、世界のどこかで起きた出来事を即時に知ることができる映像と状況への多くの反応の膨大な波、ドローンが飛び回り、近い未来、車も空を飛ぶのだろう。人工知能はより発展し、社会に有効還元されながら、バグも起きてくるのだろうし、全部が杞憂では終わらず、先憂後楽でもないことも多く多くあり過ぎるのは仕方ない。 反面、異なる世代、異分野同士の連携も活発になってゆくのだという共振感覚も強くある。“知識をアップルパイのように”携えて、珈琲や紅茶をテーブルに置いて、ずっと話せる場で多様なデザインが生まれて、それを具現化する過程をまた、何度も補整することで、巨大組織の不自由さとは、別に、移動型会議室、ムーヴィング・ワーキングプレイスのような場に出会う機会はもっと増えるだろう。わざわざ、「そこ」に行かなくてもいい。「そこ」を作ればいい、というとまだ理想主義的な言葉に響くかもしれないが、小さく、小さく成立は可能だと思う。

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 彼女たちのこの曲を聴くと、筆者などは80年代のシンセ・ポップのムードを想い出しつつ、MTV全盛時代のあのビデオクリップがどんどん作られていた空気感を今に運んでいるようで、しかし、MVはやはり如何にも現代的なデカダンで灰色の景色と、不穏さが前提のなかで、勿論、今のテクノロジーが融和されながら、どこか「ベタ」で、フラットに観ることができる。 アデルの「Hello」のMVを作成した気鋭の映画監督たるグザヴィエ・ドランが取材で曲を聴いて、「電話をかけるアデル」の姿を思ったと言っており、そのカットがあるが但し、彼女はスマホでなく、折り畳み式の携帯電話を持っている。あえて、なのは分かりながら、今、この「あえて」があちこちに見受けられて、ドランの作品群も描写や演出の巧さの裏で、音楽がとてもベタだったりする。近作の『たかが世界の終わり』では、モービーの「ナチュラル・ブルーズ」というビッグネスな曲が使われていたり、でも、彼らのような世代においては仮想のノスタルジアや商業主義的なイコン性をそこに視ている訳でもなく、アデルの折り畳み式携帯電話は“スマホを使うと、ある特定のメーカーの何かに貢献している、イメージ付けをしてしまう”という自覚裡に真摯に選択されている。

 MUNAは、2013年に南カリフォルニア大学の同級生だったケイティ、ジョゼット、ナオミの三人によって結成されたガールズ・トリオのバンド。ポップで聴き易いサウンドの中には鋭角的なメッセージが要所に込められている。今年に満を持して、ファースト・アルバム『About U』をリリースしたが、今後より知られるようになってゆくだろう。

 Where everyone gonna lay down their weapon
 Lay down their weapon
 Just give me trust and watch what'll happen
 'Cause I know
     (「I Know A Place」)

 生真面目過ぎるほどの現実を見据えた歌詩の中には、これからの未来を考える理想主義たる部分がないと成り立たない。しかし、今、ストレートに「ベタ」に感じられてしまう地平で絶望に取り込まれたり、冷笑を構えたりするのは容易だが得策ではないと感じることが多い。その向こう側こそに、また戻ってくる光があるのだろうというのも信じないと時代は巡らない訳で、彼女たちのような音楽や視角はその一端を担ってゆくのだと思う。
(2017.2.21) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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