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サニーデイ・サービス
『花火』

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 ミッドライフ・クライシスといえば、なんとなく横文字の響きがいいが、生物体として更年期、中年期に差し掛かろうとするときはどうにも心身の状態が芳しくなくなるというのは老いに関しての自覚裡をどうしてゆくかの必然なのかもしれない。意欲が出ない、身体が重い、無理が効かない。それらを多少の若さなりでブレイクスルーできたかもしれないがそうではない方法論が求められるようになって、だからこそ、その後の老いと中年期特有の懊悩をうまく受け止められている人たちの在り様は参考になるどころか、エネルギッシュにさえ映る。

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 最近の曽我部恵一もとても快活で頼もしく、多様な活動の中でもApple MusicとSpotifyのみでの急遽、サブスクリプション配信でリリースされたサニーデイ・サービスの新作『Popcorn Ballads』も22曲入り85分という(シェアありきという)力作で、同時代性を含みながら、その中から次から次へとMVも公開されてゆくというのも興味深く、アルバムの中でも特にリリシズムが際立っていたこの「花火」は曽我部自身ディレクションによる映像美とともに流石だった。“サニーデイ・サービスらしさ”というのを大きく定義付けするとしたならば、青みを帯びた頽廃と恋愛の中での純化された何かだという気がする。曽我部恵一ソロや他名義では出ないその色は、永遠に辿り着けない遠い夏、渚、海岸のような淡さがあるような想いがよぎりもする。私的に、過去の佳曲「海岸行き」という曲も回顧しつつ。

 この「花火」にもそれに似た感覚がありながら、ナイアガラ・サウンドのようなスケールの大きさといい、熟練味からして今のあくまで彼らなのだけれど、ずっと前からの彼らの地続き上でもあって、MVでのモノクロームの中で多相な記号群が行き交うからこそ聴き手が色を無限に重ねていけば、歳を重ねてこそ奏でる音楽とは捨てたものじゃないどころか、じんわりと心身の疲弊や憂鬱なざらつきに対して真摯に向かい合ってくれるような、そんな色気が滲み、移ろう。移ろえば、次へと歩みを進めればいいだけで恐れることはなく、ピラミッドの上にあがる花火を幻のようにでも感じることができる特権は今の時代に在る―ミッドライフに限定しない―どんな場所のどんな世代にもロマンティックに届くと思う。
(2017.9.23) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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