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吉澤嘉代子
『残ってる』

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 4年前に初めてmusiplで吉澤嘉代子のレビューをした頃はまだインディーズで、歌詞を書いたが用紙を落としながら展開していく本人が映らないMVはインパクトがあって、それ以上に歌、音楽そのものが素晴らしくて引き込まれた。その後話題になり、メジャーデビュー。その時の歌が、なんだろう、メジャー病と言えばいいのかインディーの頃の風合いが消えていて、個人的にちょっとガッカリ。いや、メジャー的なものを排してマイナーな風情にこだわり続ければいいということではない。飛躍するにはどんなものであっても常に変わっていかなければいけないし、その過程でバッサリと捨て去るべきものというのは確実にある。ただ、彼女のデビュー時の変わり方には違和感があって、いやそれじゃないでしょうと。僕自身メジャーレーベルで仕事をしていた時の経験からいうと、デビューしたてのアーチストを自分の解釈で手を入れたがるディレクターというのはいて、そういう人との協議で新人が抗する余地はほとんどなかったりする。彼女の場合がそうだったと断言するわけではないし、そのデビュー時に対しても高い評価は寄せられているので、僕の言ってることが絶対なんかではないことは踏まえつつ、どうなるんだろと思っていたら、しばらくしてインディーズの頃の名曲「泣き虫ジュゴン」を出してきて。ああ、こういうのを聴きたかったんだよと嬉しくなった。その後もいろいろな曲調の作品を出している吉澤嘉代子だが、この新しい「残ってる」という曲は、人間の内面にある、普通なのに普通じゃないことを突いてくるという彼女のいい部分がじんわりと沁みてきてて、とてもイイ。このMVも、本人が出てこなくて、そしてリリックが重ねられていくというある意味デビュー前の彼女のMVに多く取り入れられていた手法が少しばかり変形して使われているような気もして、嬉しい。タイトルの「残ってる」という言葉を最初に見た時に、メジャーデビューして変身していった彼女の中に原点の何かが残ってるという意味がかかっているんじゃないかと思ったりして、いやそれは完全に勝手な思い込みに過ぎないんだけれども、嬉しくさせられたのだった。
(2017.10.21) (レビュアー:大島栄二)
 


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