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平林純
『幸せになりたくない』

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 幸せになりたくないというのは、不幸になりたいということなのだろうか。それとも、幸せになるための努力なんてまっぴら御免だけど知らないうちに幸せになっているのは拒まない、という意味だろうか。歌詞の中で出てくる「幸せにはなりたくない」という言葉は行動と言葉のズレを指摘するような流れで出てきていて、第三者による推論のような表現になっている。この場合の幸せとは何かの定義だったり、本人の意志というものが曖昧なので「幸せになりたくない」の意味がなんなのかを正確に言い当てることは難しいのだけれども、大雑把な例えをするなら、居酒屋で夢を語る人の、夢の実現性のようなものだろうか。語られる夢が壮大であればあるほど居酒屋で飲んでいる暇はないのだが、夜な夜な居酒屋では夢が語られる。そういうのホント面白いしシニカルだなあと思う。あと数日で実施される大学入試センター試験に本気で取り組んでいる人が居酒屋で「合格したい」と語ったりするかという話で。いや、ほとんどの大学受験生は居酒屋で飲んだりしてはいけませんけど。そういうことじゃなくてね。しかしこういう「幸せになりたくない」という言葉そのものは、意味の具体性より字面の強さが前面に出てくるので、とても厄介だ。だからキャッチーな言葉として歌詞やタイトルに使われるのだろうが、このMVでは若い女性が高級そうなベッドの上でゴロゴロしながら歌っていて、歌詞にあるような切実さや真剣さが皆目感じられない。彼女の別のMVではギターを弾き語っていてロックシンガーのイメージが押し出されているのだけれども、これはそれと同じ人とはとても思えないMVだ。アーチストの多面性を打ち出していく戦略なのだろうとは思うが、その結果イメージが固着しなくて、それで本当にいいのだろうかと正直思う。ルックスも良いし声の張りも良いのでもっと固着させる何かを打ち出した方がいいのにと思うし、本当に歌の世界で幸せになりたくないのではないだろうかと、あれ、そういう意味なのかと、そんな風にもちょっと思っちゃってもどかしい。
(2018.1.5) (レビュアー:大島栄二)
 


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