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白いベランダ
『街の白い手』

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 この会場は一体どこなんだろうか。壁があって、吸音ボードのような穴があいた板が組み込まれていて、そこに額をいくつか掛けてあって。額を掛けたら吸音効果が失われるんじゃないのかとか思ったりもするけど、そんなことはおかまいなしなんだろうね。その壁にもたれるくらいの位置に座って演奏している。カメラの位置からすると客席も近いのだろう、ステージは狭いのだろう。YouTubeのタイトルには「千鈴舎」という場所が書いてある。千葉県松戸にあるギャラリー&音楽室とのこと。インスタグラムもあって、それをみるとはめ込みの壁と思ってたのは窓になっている。窓からの光を遮るためのボードなのだ、なるほどなるほど。こういうのが瞬時にわかってしまうというのがネット時代の良いところだったり悪いところだったり。さて、この壁際ギリギリに座って演奏されるこの白いベランダというバンド。良い歌を歌う。声質から想像するに、きっと高い音域もスーッと歌えるだろう澄んだ声で、低いキーの歌を歌っている。そのたたずまいからは売れようとかいう気負いがまるで感じられず、ただただ歌う、表現する。そういう意志が感じられる。こういうエンターテインメント性を排したところにある表現というものが、僕にはとても愛おしく感じられる。数十年前には音楽というものが商業的な成功を目指すことばかりに追い立てられていて、売れることを志向しない音楽には価値が無いような風潮があった。一定の支持や評価を得られなければ音楽を発表することさえ難しいという時代がずっとあった。しかしインディーズというものが登場し、表現者が増えることで、商業にはつながらないけれども表現をするということが存在として許容されるようになって。ライブ会場になるカフェや飲み屋もどんどんと増えて、その結果商業的成功とは無縁の表現者たちの居場所が出来た。
 その場所にも土地代や家賃があるのであって、それを賄うのに多少のビジネスは必要で、だからそこに表現者が甘えていてばかりではいけないとは思うけれども、一方でガツガツとした商業ベースでの場ではないこういう場所が増えることは、表現者のみならずリスナーにとっても福音なのだと思う。今はそんなに知られず評価もされていない人たちの、その多くは依然として未来が感じられない無価値に等しい音楽をやっているだけだったりするものの、中にはこうやってキラリと光る才能を迸らせる原石たちも少なくない。こういう音楽に出会うということは、ラッキーなことだなあと思うのだが、みなさんはどうだろうか。
(2018.5.11) (レビュアー:大島栄二)
 


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