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水咲加奈
『遠い街』

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 歌われていることは1度聴いたくらいでは理解できない。ただ、感情のこもった歌がうたわれているなあとしか感じることができない。暗喩を散りばめた、というよりも暗喩のみで心を隠そうと懸命に、でも内に秘めておき続けることはできない、存在証明の爪痕のような歌だ。
 成長とは過去との別離であって、去年のサンダルが足に合わずに痣だらけになる。過去の大きさに合わせるために慣れるのを待つ。しかし成長している以上合うはずもなく。たんぼの向こうにある美しい光景と、こちら側には1本だけの道。慣れるはずも無い唯一の小さなサンダルを脱ぎ捨てたとしても、自分にはその道しかなく、遠くの光景を眺めながら進むしかなくて。
 故郷には優しさと厳しさとが同時に存在し、優しさが勝てば幸せだろうが、厳しさばかりが自分を苛むこともよくあって。その優しさとは何か。厳しさとは何か。明確な表示は無くとも確かに存在する。むしろ明確な表示が無いからこそ、それらに自分が絡めとられていることになかなか気付けず、無性なつらさばかりが募る。
 遠い街に行きたいと言う。遠い街で生きたいと言う。その切実な想いが聴く者の胸をつかむ。何度聴いても具体的な想いの闇は見えず、おそらく僕が感じたものも100点の受け取りではないはずで。それでも何度も何度も繰り返し聴いて、ぼんやりとながらも強い感情がこちら側に染み込んでくる。染み込ませているのは、なによりもこの歌詞を紡ぐ作品力と気持ちの強さなのだが、シンガーとしての水咲加奈が持つ歌唱力も大きいだろう。歌が良くなければこんなに何度も繰り返して聴くことはできない。そして何度も繰り返して聴かなければ、この曲が持っている強い意志に近づくこともできないのだ。
(2018.8.7) (レビュアー:大島栄二)
 


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