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吉澤嘉代子
『女優』

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 吉澤嘉代子はメジャーデビューして一体どうしてしまったんだろうと思ってしばらく。昨年の『残ってる』では本来の良さに回帰してきたと感じてレビューもしてみたが、『ミューズ』でさらに洗練され、この『女優』ではまさに一皮も二皮もむけ、その音楽が原点に忠実に進化を遂げたような印象を放っていて素晴らしい。ではその本来の良さとは一体何かというと、寄り添う女性讃歌。彼女が歌う女性の姿はとても切なく、背伸びをしつつも等身大でしかありえない女性そのもの。女性と一言でいうと、そこに男性との様々な違いを意識せざるを得ないし、社会的な違いなどの要素も言葉には含まれてしまうので、レビューの本意が伝わるのだろうかという心配はあるものの、気にせず書き続けるわけだが。メジャーデビュー前のリリックビデオ群では、少々エキセントリックな表現をしていた。エキセントリックなのは何とかして他とは違う表現者として自分を知ってもらうためでもあり、同時に吉澤嘉代子が本質的に持っているエキセントリックさだったのだろうが、結果目立って知名度も上がり、メジャーデビューした時にはそのエキセントリックさが要求されてしまったのだろうと思う。だが、本質としての女性讃歌の部分が置き去りにされ、エキセントリックに特化した作品を要求されるがままに発表した、その故の迷走だったのだと思う。しかし、どうだこの『女優』エキセントリックさなど欠片もなく、迷走の間も忘れることの無かった女性讃歌だけが純粋培養されたようにここに展開されている。そう、彼女にエキセントリックなものなどは必要なかったのだ。まるでBUCK-TICKが髪を逆立てることで知名度を上げたものの、今となっては1人のメンバーを除いてみんな髪を立てたりせずに、音楽性のみで勝負しているような、そんな感じの進化。ここには吉澤嘉代子が現象を見つめる時に、彼女の優しさが何に焦点を当てているのかを垣間見るような歌がある。その歌を聴く時、僕らはちょっとだけ優しくなれる。ああ、こういう見方をすれば人を応援することが出来るのかという気付きがある。彼女のその焦点の当て方を知ることがこの作品を聴く価値なのであり、だからエキセントリックな何かが聴く者の意識を奪っていくことなど、むしろ邪魔なことでしかなかったのではないかと今更ながらに感じたりもする。
(2018.11.23) (レビュアー:大島栄二)
 


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