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Wanna-Gonna
『それから』

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 堂々としたというか、落ち着いているというか。名曲だと思う。まだまだこれからのバンドの曲をつかまえて名曲という言葉は重すぎるのかもしれないが、10年後20年後に彼らがまだこのバンドとして音楽を続けていたなら、振り返ってあれが代表曲だったと評されるにふさわしい曲だと思う。しかしながら、じゃあこれを名曲という以外のことばでどう表せばいいのかというと、俄に困る。音楽を送り出す側がいつも悩むのがまさにこれで、キャッチコピーというもの。音楽なのだから音を聴いてもらえばいい音楽だということは伝わるんだよと素人はいう。だが、その最初に聴いてもらうことがどれほど難しいことか。ストリートで実際に演奏していたとしても偶然通りがかっただけの人が足を止めて耳を傾けることは稀で、だから、実際に音が鳴っていない状態で、ワンクリックの労力だけでも費やしてもらって音を聴いてもらうことは本当に難しいのだ。「聴いてみたい」と思わせるような音以外の要素が必要で、それは例えばCMやドラマで使われて強制的に何度も聴かせるというものでもいい。だがそんな状況を作り出すのはもっと難しいので、業界人はアイディアだけで無料のキャッチコピーをまず考えようとする。そのためには目立った特徴が必要となってきて、奇抜な音楽であればめだったコピーを考えるのも容易になってくる。しかし普遍的で王道なスタイルの音楽であればあるほど、その音楽を適切に言い表しつつ興味をそそるコピーを考え出すことは難しいのだ。ただ「凄い曲だ」「名曲だ」と言ったところで、誰も興味を持ってくれやしないのだから。
 長々とした前置きになったが、Wanna-Gonnaというバンド、なかなかだと思う。地味だ。しかしそれは音数を整理し、過度に熱量を加えないという手法で音楽を作っているからだろう。音楽には正解がないから、スタジオで音を重ねていて100%の自信を持てることはほとんど無く、自信が無い分音を重ねることで自分を納得させようとすることが多くて、結果的に無駄な音の集合のような音源が出来てしまったりする。プロデューサーという立場の人間が一歩退いた視点で音作りに関わることの重要性はそういう不安にあるのだが、Wanna-Gonnaの少なくともこの曲に関しては、第三者の判断を仰ぐ必要などなく、自らの判断で必要最小限の音を生み出すことが出来る人たちだなということが判る。それだけに、少々地味で淡々とした作風が、どのくらいの人に伝わるのかなあと心配になる。心配をしなきゃならないような立場ではまったくないけれども、良い曲は単純に知られて欲しいと思うのだ。
(2018.12.17) (レビュアー:大島栄二)
 


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