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さらばルバート、空を飛ぶ
『悲しみがある』

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 汗が報われなくていいんだ。とても救われる言葉だ。
 人は努力をして自らの人生を切り拓くものだと教えられる。向上心が人そのものを良くしていき、それが社会全体を向上させるのだから、社会がそう教えるのも当然のこと。向上心を持った子供は、やがて努力というものをするようになる。本能からそうなのか、それとも教育によってそうなっていくのか。いずれにしても、向上心は人を変えていく。
 だが、その向上心と努力によって到達できる範囲というのは自ずと決まっている。人は機械の力を借りずに空を飛ぶことは出来ない。努力すれば200歳まで生きられるものではない。時代背景も努力の到達点に大きな影響を及ぼす。それまでも努力でなんとかしようというのは無茶な話だし、無謀な話だ。
 セミは成虫になって羽化して1週間ほど生きる。それが夏晴れのここちよい日々にあたるのか、それとも台風直撃の雨ざらしの日々にあたるのか。セミは生きる1週間の天気を選べない。ただ、地上に出てからの天候の中で懸命に生きて子孫を残そうとするだけだ。
 人間も、生まれた場所が戦争下で、空から爆弾が落ちてくる状況であるかもしれないし、平和そのものの好景気の世の中かもしれない。どんな時代に生まれるのかを選ぶことはできやしない。どんな状況であっても向上心で人生を多少良くすることはできる。だが、好景気の世の中ならば人生を豊かにできた努力の総量で、不景気な世の中での人生を成功に導けるとは限らない。時代背景も違う過去の成功者からもっと頑張れよと言われても、それはお門違いですよと答えることさえ虚しいということはあるだろう。これからの時代、そのような不条理に苛まれるケースはどんどん増えていくと思う。
 汗が報われなくていいんだ。とても救われる言葉だ。無論その言葉で向上心を放棄すべきということではない。努力は常にやってみるべきだ。しかし、努力は報われるというきらびやかな言葉を信じて突き進むと、いつか裏切られることがある。その時に絶望しないでいいように、「汗が報われなくていいんだ」という言葉を、ある種のセーフガードとして秘めていることが、これからの時代には大事になってくるような気がするし、そのことで、報われない結果に終わった時にもまた次のステップに移っていく力を持てるような気がする。
(2019.9.24) (レビュアー:大島栄二)
 


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