世界のんびりヴァーチャル音楽紀行(仮題)

                               第0回 台湾  文=松浦 達

序文)世界は近くなり、視野は曖昧になった

 「今の時代ほど、幸せなときはない。」と誰かに言いますと、よく訝しげな顔をされます。しかし、世界中の音楽をネットを介し、ダイレクトに聴くことができる環境があり、少しの想像力と好奇心をのばせば、どんどん視野が拡がるという状況はとても幸せなことだと思うのです。私は、世界の色んな音楽を聴くのが好きで、そこには何かしら文化的理由、新たな発見があるからです。スペインのフラメンコ、ポルトガルのファド、バリのケチャ、ブラジルのボサ・ノヴァなどといった伝統的なものを大切にしつつも、洗練化されている多様な音楽に触れるたび、世界の広さと恣意的な国境の曖昧さに気付かされることもあります。

 しかし、“旅に行くこと、そのもの”はなかなか容易ではなく、また、職柄がありましても、海外に出ることは相当のハードルはまだあります。

 世界の空港に想いを馳せ、ラジオの“JET STREAM”のようなプログラムを聞いて、TVの世界紀行のプログラムを観て、想いを馳せる人も多いでしょう。私もまだまだ知らない、行ったことがない国ばかりで、生きている間に訪れたい場所は尽きません。

 そこで、この記事では、いわゆる、“ワールド・ミュージック”という囲いではどうしても蚊帳の外に置かれてしまいがちな音楽に対して、アクチュアルな視点を持ち込み、わずかばかりの各地域の音楽を経ての架空フライトを愉しんでもらえたら、というささやかな意図があります。

 このmusiplというサイトでも多種多様な音楽が日々、紹介、レビューされていますが、そういった心持ちは保った下で、パスポートは持っていなくても、条件資格はなく、自由にアクセスして、なにか気になりましたら、さらに鉱脈を掘り下げていけば、色眼鏡を抜きに視野が変わるのではないか、という願いを大層ではなく、ささやかに込めております。

第0回として

 世界を巡ってゆくにあたりまして、助走、滑走路として今回は“第0回目”と銘打ち、すぐ傍の台湾にしました。ゆくゆくは、世界の地域単位で取り上げていこうと思っております。今年、2014年のGWの海外旅行の渡航先として飛躍した国に、台湾があります。台湾はフライト時間の短さと治安、温暖な気候、親日的な在り方を含め、人気が高まっています。

 台湾といえば、故宮博物館、九份、露天温泉、夜市(夜に町に出る屋台)、小籠包などイメージが浮かぶ方も居ると思います。また、日本のアーティストが台湾では人気があり、実際、ライヴハウスには色んな方々を見受けます。6月には台北アリーナで福山雅治さんのライヴもありますし、大型のイベントと小さなライヴハウス、クラブまでが揃っています。

 このmusiplではSTAYCOOLというバンドから、大御所の周杰倫など紹介させて戴きましたが、台湾の面白いところは共存し合うアーティストの個性があまたの模倣を越えて、不思議なオリジナリティを持っているということでもあります。そんな中で、今回は、あくまで、5組ほどを。

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旺福


旺福(Wonfu)『愛洗蝦米』

 1998年から活動を開始し、メンバーの変遷はありましたが、キャリア的には十二分なものを誇り、認知度も高いバンドですが、このMVのセンスからすでに伝わってくるものは、ビートルズ直系のサウンドにファニーでB級的な佇まい、どこか聴き慣れたギター・ソロなど突っ込めるところが沢山あります。しかし、あえてそういった点もチャームでもあり、雑踏で彼らの音楽が流れてきましたら、心躍る感じがあります。多種多様な実験精神に満ちた曲をリリースしているので、気になりましたら、他の曲やMVも。下のHPといい、“原色”の感じも台湾というイメージを拡げます。

旺福HP

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女孩與機器人

 心躍る感じといえば、こういったエレクトロ・ポップもどうでしょうか。女孩與機器人という女性1人、男性2人からなるユニット。来日公演もしていますし、こういったキャッチーなポップ・ソングと華のある佇まいは言語の意味抜きにある人には懐かしさもおぼえ、ある人には新しさをおぼえるのではないでしょうか。昨今の中田ヤスタカ氏が手掛けるサウンド・ワークを投影する方もいるかもしれません。ちなみに、THE SMITHSの「There Is A Light That Never Goes Out」の程よく肩の力の抜けたカバーもしたりしていますが、昨今の台湾のインディー・シーンの中でも着実に評価が高まっています。ユニット名の英語表記の“The Girl And The Robots”なんてところも、現代らしい温度を感じます。


女孩與機器人(The Girl And The Robots)『魚』

女孩與機器人FACEBOOK

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生祥樂隊

 次には、少しリラックスしたものも、ということで、ソロとしても活躍する林生祥(Lin Shen-Xiang)率いるそのまま、彼の名が入りました生祥樂隊というバンドのカントリー調のこんな曲を。MVで出てくる台湾の何気ない日常風景もそうですが、歌そのものにも親しみやすさがあります。


生祥樂隊(Sheng-Xiang & Band)『我庄』

林正祥FACEBOOK

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甜梅號

 また、ポスト・ロック・バンドの充実も欠かせません。その中のひとつに彼らの存在があります。その他には、知っている人もいるかもしれません、錫盤街 (Tin Pan Alley)、阿飛西雅(Aphasia)も有名です。併せて、フィッシュマンズの影響を公言する気鋭の盪在空中は、透明雑誌と並んで、日本でも話題になったのも記憶に新しいところです。このMVでもじわじわと抑え気味な展開に、ギターノイズとどことなくオリエンタルなメロディが入ってくるひとつの音絵巻を見ているようで、音響工作にも拘っている美意識もうかがえます。


 甜梅號(Sugar Plum Ferry)『站在太陽上』

甜梅號FACEBOOK

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CICADA

 最後には、Cicadaを。女性三人、男性一人からバンドですが、いわゆる、“モダン・クラシカル”と呼ばれるカテゴリーに当てはまる優美な音楽を奏でています。ギター、弦楽器とピアノなどの絶妙な絡み方の中にほのかなリリシズムがよぎります。MVの作りも面白いものが多いです。


 CICADA『晨霧』

Cicada FACEBOOK

 極力、色んなジャンルの方を取り上げましたが、何かしらでも伝わったものはあったでしょうか。

 こういった形であくまで、ゆるやかにフライトを続けてゆくことで、音楽を通じて色んな国、場所をあらためて知る契機に、と畏まるまでもなく、のんびりと世界を回っていけたらと思っております。

2014.5.10.寄稿