不良の音楽

           BABYMETALの躍進に見る「不良」性の魅力について  文=大島栄二

不良の音楽 〜 現代の不良

 最近ある人のリツイートで「ロックも昔はやばかったわけよ。ジョン・レノンなんて今は聖人だがありゃ気違いだよ。その曲が今や音楽教科書に載ってるんだから、去勢されっぷりが半端ない。」というツイートを見た。確かにそうだ。ビートルズの来日武道館公演は当時の中学生高校生は禁止対象だったのだ。ロックは不良の音楽だった。セックスドラッグロックンロールの時代は確かにあった。しかし今となっては誰もがポールよ感動をありがとうだし、ミックジャガーに至ってはパワフルなライブをこなすために健康維持に懸命である。もはやロックは健康の産物なのである。

 そしてそのツイートをしていた人はこうも言っていた。「「ロックとアニメ美少女は相性いいことが証明された」のではなく、「最近、ロックがアニメと愛称のいい場所まで移動してきた」とする方が、当方などにはしっくりくる。それはつまり、今「ロックの魂」「ロックンロール」などと真顔で言うと「お笑い」にしかならんという現況証明だ。」なるほど、それはそうなのかもしれない。学生運動で世界は変わると思っていたのが60年代。しかしそれでは結局変わらないということをなんとなくみんな感じ、学生運動は下火となり、ロックが訴えていた「世界を変えてやる」もいつしか薄れ、ではロックの魂って一体何なんだと真顔で問われれば、うーんそんな答はどこにも転がってないよというしか無くなってしまう。

 そのツイート主のことをフォローしているわけでもなく、だからすべての発言を把握しているのでもないので、その人の意図とはズレる可能性は十分にあるのだが、ここから先はそのツイートから思い描いた僕の意見ということで進めていきたい。ロックとは何かについて。

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 ここしばらくで驚いた話題といえば、BABYMETALがレディガガのツアー前座に抜擢されたということだ。アメリカで大物アーチストのライブに行けばわかるが、日本と違って前座バンドがいることは当たり前である。ツアー全体に帯同するような前座もあれば、公演地の人気者がその公演だけ前座を勤めるということもある。その辺はイベンターとアーチストのマネジメントによって決まるのであり、今回のBABYMETALがどのような話の結果決まったのかはよくわからない。ニュースではガガが指名したということで、それももちろん有り得るだろうし、ガガのツアーを仕切るイベンターとBABYMETALのアメリカ公演を仕切るイベンターがどのような関係なのかも当然関係するだろうし、一概にニュースの通りの事情がすべてではないだろう。ただ、いずれにしてもBABYMETALを面白いと思う人がいて、ビジネスになると思う人がいるということは間違いないことだ。そしてどうやら彼女たちのアメリカ公演チケットは次々にソールドアウトしているらしい。


BABYMETAL - 『ギミチョコ!! 』

 動画を見てどう思うだろうか。「これはメタルではない!」という声は容易に想像できる。メタルやハードロックというのはある意味伝統芸能のような世界であって、いってみれば歌舞伎の見栄のような要素がちりばめられていて、「先代の団十郎は」「先代の勘三郎は」というような比較をされる。速弾きがあって高音シャウトがあって、いくつかの要素を入れておかないと納得できないマニアファンが存在して、まるでフィギュアスケートのショートプログラムのようなものだ。そこに新味はあるのかというとそれも要求される。無ければただのコピーでしかないわけで、だから伝統を重んじつつも狭い中でオリジナリティを出さなければという、結構窮屈な音楽ジャンルだといえる。その観点からすればBABYMETALの音楽なんてメタルではない。だが彼女たちや彼女たちを仕掛けている人たちはメタルファンに受けたいなど微塵も考えていないだろうし、彼女たちを見たいと思っている観客たちも、メタルを聴きたいなどまったく考えていないはずである。

 そこにあるのは「メタル風味」でしかない。でしかないというより、そこに留めて、「風味」を利用することによって自分たちの外見上のアイデンティティを明確にし、本質のアイデンティティを広げていく足掛かりにしている。もっといえばメタルを自分たちのファッションにしているだけのこと。他と違う個性を打ち出すために流行りとは違う服を上手く着こなす。それはセンスを持った若い女性の得意技であって、「ロック魂」とこだわってTシャツでライブをしている人たちにはなかなか真似の出来ない割り切りなのかもしれない。

 風味という意味ではAKBだってそうだろう。


AKB48『風は吹いている』

 この曲が出てきた時、ロックだなと感じた。この曲をカバーすればぴったりハマるロックバンドはかなり多いはず。ビデオの中のメイクもいつものAKBのような「可愛い」全面押しではないし、彼女たちの世界を広げて支持の在り様を大きく広げた曲になったはず。でも、彼女たちはこういう音楽をやりたいというのではないだろうし、秋元康もこういうのをやらせたいというのではないだろう。あくまで「風味」であり、その風味によって彼女たちの何かを広げていく手段に楽曲やジャンルを選んでいるに過ぎない。当然この路線を続けていったりしないわけで、音楽のジャンルやテイストはアイドルの世界や可能性を広げていくための「風味」として利用されているのである。

 現在はAKBの成功によってどんどんアイドルグループが登場し、ただ歌って踊って可愛いだけでは目立つことは出来なくなっている。ちょっと前にアイドルグループのBiSがこういうコラボで活動していた。


BiS階段『eat it』

 BiS階段というのはアイドルグループのBiSと伝説のノイズバンド非常階段が組んだユニット。動画に出てくるギター弾いているサングラスのオッサンが非常階段のリーダーでアルケミーレコード社長でもあるJOJO広重である。アイドル側の人からすれば「なんだこのオッサン?」だろうが、インディーズ側の人からすれば「このアイドルなんだ一体?」である。きっとどちらもWIN-WINだったのだろう。BiSがノイズサウンドをこよなく愛しているとは考えにくいし、事実楽曲はPOPソングだ。他のアイドルグループとの差別化を図るために「ノイズ」という一種の禁じ手を「風味」として選択したのだろう。80年代に非常階段が行なっていた「いろいろなものを客席に投げる」というパフォーマンスもきっちりと踏襲。このライブでは生麺を投げている。アイドルのファンならステージから生麺を投げられれば嬉しいのかもしれない。普通のロックバンドのライブでは考えられないことがここでは行なわれているし、それを観客も楽しんでいるというのが面白い。


不良という定義 〜 いつの時代の若者も、不良が好き

 今も昔も変わらずにロカビリーバンドというのはいる。リーゼント姿に派手なスーツ。エルビスプレスリーのやっていたような音楽を演奏している。これもある意味伝統芸能的な色彩を持っているジャンルだといえよう。そのファッションなども含め、「不良の音楽」的な要素を今も持っている。


氣志團 『One Night Carnival』

 氣志團はロカビリーとは違うけれども、そのファッションは完璧なリーゼントが基本。ん?完璧なリーゼントってなんだろうか? ロカビリーの王道のリーゼントとはちょっと違っている。むしろビーバップハイスクールのリーゼントだ。そこにある時期の日本の不良の象徴でもある長い学ラン「長ラン」を衣装としてキメている。彼らは不良なのだろうか。BABYMETALがメタルなのかという問いに較べれば「うーん、不良かもなあ」というイメージは強いが、音楽ビジネス的には不良をやはり「風味」として用い、彼らの音楽のアイデンティティとして強調することによって当時の他のバンドと差別化を図り、人気を集めていったといえるだろう。無論成功したのは「風味」だけの理由ではないけれども。

 不良とは一体なんだろうか。それはその時代の常識や決まりから外れているということなのではないだろうか。なにも体制に反抗して校舎の窓ガラスを割るのが不良ではない。60年代ならロックが不良だっただろうが、今は不良ではない。「アイドルなのにこんなことするのか!」という方がよほど不良だといえる。

 そして決定的にいえるのは、常識を破ってくれる「不良」が、若者は好きなのだ。ワクワクするのだ。だから人気を集める。この場合の不良というのは言葉が持つステレオタイプなファッションではなく、自分の常識の殻を破ってみせてくれる存在として。

 80年代後半に尾崎豊が登場し、「盗んだバイクで走り出す」イメージがあって、ライブで照明用のやぐらから飛び降りて骨折するという破天荒さがウケた。RCサクセションは地味で売れないフォークグループの時代を経て、派手なメイクをするようになり人気が出た。もっといえば立って歌うのが当たり前だった時代に踊りまくって歌ったピンクレディが大ヒットしたのもその常識破り的インパクトの故だと思う。その観点からいえば、今の若いロックバンドたちは不良的な要素が少ない。旧来の「不良」イメージを持ったヒップホップグループたちはいるにいるが、それも結局は旧来の伝統芸能的「不良」イメージを踏襲しているに過ぎず、革命的な常識破りに踏み込んでいるわけではない。

 もちろんあらゆる音楽ジャンルが登場し、その枝葉が細部に分かれてしまった今となっては、これまでの常識を超えた新しいモノを打ち出すということはかなり難しいことではある。だが不可能なことと諦めてしまう必要はないし、BABYMETALのやっているようなこと、ちょっとした組合せの妙の中に答え、というかヒントはあるような気がする。頑張れバンドマンたちよ。常識をくつがえす不良なことを発見して、僕たちにみせつけてくれ。

 

2014.6.20.寄稿