ホームランなみち『Reel Love』 Next Plus SongUA『AUWA』

辻林美穂
『あぶく』

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 正統派シンガーではないように感じられる、けれどもじゃあどこが正統派ではないのかと問われると、ちゃんと答えられない。腹の底から圧力を感じられる声を出しているシンガーだけが正統派なのかというとそんなことはないだろうし。昔でいえばさねよしいさ子のような、正統派と不思議ちゃんの中間(というよりかなり不思議ちゃん寄り)というポジショニングのアーチストはいつの時代にもいて、でもこの人はそれとはまったく違うような気がする。何度も聴いているうちに確信に変わってくる。いくつか公開されているライブ映像では、いかにもなバンド構成のサウンドに乗った歌なので、ささやくような声を持っているという以外はちゃんと歌を表現しているシンガーだということがよくわかる。一方このMVでは、レコーディング音源だからライブ時におけるバンド表現の限界を超えることができるわけで、だからなのか、単体で明確なリズムをキープしている音があるわけでもなく、フレーズフレーズで中心に来る音が変化して、その結果、1曲を通じて惑わされ続けるような、不思議な気分になる。2分半から3分くらいまでの盛上がりの中で、いくつもの音と声が渾然一体となって、ああ、この曲は言葉にならない声として音が存在しているんじゃないかなあと、そんな気分になる。タイトルに沿っていえば、その音ひとつひとつがあぶくのようにどこからか沸き立って、ひとつひとつのあぶくがくっついてあぶく集合になっていくような、そんな音楽世界が在るように感じる。聴いていて、引き込まれるあぶく世界。やがてそれぞれが割れて終わったとしても、意識の中に残り続ける残像のような。
(2016.5.27) (レビュアー:大島栄二)
 


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