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Mark Pritchard
『Beautiful People』

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 日本における2016年度の新語・流行語大賞の候補を見ていると、この言葉の数々から引き裂かれた場所にこそ流行感冒、流行り風のような熱がたまっていたような感じさえする。これらのキーワードで卓上に置いて、トランプしていたとしてもどれも正鵠を射ないというか、今は個人の嗜好に別個人の思考を押し付けるのは良くないとされる。ポリティカル・コレクトネスの名の下に。しかしでも、ヘイト・スピーチ的なものやモノローグな揶揄は容赦なく垂れ流される。

 そこで、世界を見渡せば、天災、政変、難民問題の尽きなさ、不透明なヴィシャスが自動化されているようで、本末転倒ながら、この曲のタイトルを想うことがあった。美しい人々(Beautiful People)。美しい信念を持っているからこそ、そうじゃないものを退ける。美しい概念を有しているから、それを押し付けようとする。のだろうか。同じく、最終的に美しい人々だけの世界になれば、誰もコロニーの中で住まなくて住むのだろうか、というのは戯言かもしれず、このMark Pritchardはついに本名で、『Under The Sun』をリリースした。過去にはHarmonic 33のみならず、秀逸な著名アーティスト、バンドのリミックス・ワーク、アンビエント・ミュージックにおける肌理の奥までを突き詰めながら、音風景の続きと終わりの中に埋もれる現実をずっと描いてきた。これは、そのアルバムの中で、トム・ヨークがフィーチャリングされたもの。悠遠で暗がりの中に、寄せてはかえす音の波とどこか不規則なビート、そこにこの世のさい果てのような情景が巡り、幾つもの意匠が凝らされながら、例のトムの声がゴーストみたくゆらゆらと酔い、揺れる。

 2016年の通奏低音的だったかもしれない、というのは不気味だが、非常に象徴的だったとは感じる。音楽としては劇的変化なき、静かな変容。その変容の中にすこしずつ未来が閉じ込められてゆく予感とともに。
(2016.12.5) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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