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松本かつひろ
『DAIJI』

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 facebookで誰それが誕生日ですよと日々教えてもらう。知人が幾人か亡くなり、その人のタイムラインに誕生日ごとに「誕生日おめでとうございます」というメッセージが並ぶのをみて、ああ、こういう愚をしてはならないなと思うようになって、facebookが通知してきたからといって安易におめでとうの投稿をするのを慎むようになった。友だちといっても距離感は様々で、ン十年前の学生時代にはよく遊んだ旧友も今ではそれぞれの生活を持ち、疎遠になり、かろうじて彼の投稿で「生きてはいるんだな」ということを確認するのみだ。SNSに投稿をしない人も多く、かつての同級生という意識はありつつも、その日々を知らない人のことを友人というのは正しいのだろうかといつも思う。そういう人に向かって、facebookに教えられたからといって誕生日おめでとうと言うのは、少しばかり不遜なことではないだろうか。生きているかどうかの確信もない相手に対して。
 facebookも始めて9年半を過ぎ、知り合った時には20歳だったフランスの女性が30歳の誕生日を迎えたとやはりfacebookが伝えてくる。彼女はフレンドになった直後から僕の投稿にイイねをしてくれて、彼女の投稿には僕もイイねをして。311の震災の時にはずいぶんと心配をしてくれて。それを友人と言っていいのか悪いのかよくわからないのだけれども、僕の気持ちの中ではSNSでつながってはいるけれどほぼノーコンタクトの旧い同級生よりはるかに重要な友人だ。会ったことはもちろんないのだけれども。その人が30歳になった。人は歳をとるのだな。40のオッサンが50になるのと20の女性が30になるのとでは、同じなのだろうか、それとも違うのだろうか。答えを出すことはできないが、その歳を重ねたという単純な事実が、僕自身の時間も経過したのだなということを改めて思い知らせた。
 十年ひと昔というが、僕が旧い同級生たちと同じ教室に通っていた40年近く昔となにか変わっているのかというと、そんな気はしない。体力は落ちたなあと思ったりはするが、考えていることが高尚になったとはまったく思わない。今も毎日くだらないことを考えて、失敗を繰り返してばかりで。それでも絶望することなどなくて、今からだって世界を変えられるというバカな楽観的な気持ちは多少持っている。ただ、残された時間は多少減ってるだろうなということは少しは自覚していて、自覚するようになってきていて。どういうわけか息子ができ、その子のために何かしてやれないだろうかと分不相応なことを考え、もう無駄なことをしている場合ではないなと思ったりはする。そのくらいには大人になれたような気はする。
 松本かつひろというさほど有名ではないシンガーの歌が、そんな僕の心に静かに迫ってくる。歌というものは歌詞カードを眺めながら言葉を噛みしめるように理解するという楽しみ方ももちろんあるけれど、ただシンガーの口から発せられる言葉をリズムとともに体感するというのが基本だと考えている。だから当然右から左に流れていく言葉もあれば、繰り返されることで心に積み重なっていく言葉も出てくる。『DAIJI』という歌はとても強くて、「何も変わっていない」というフレーズと「大事に扱いなさい」というフレーズが、ただただそればかりが僕の心に降り積もってくる。残る言葉があるというのは、それだけで名曲と言っていいのではないだろうか。そしてその残る言葉が、今の僕に刺さるように沁みる。移りゆく時間のなかで、確実に変わる自分と変わらない自分。無駄なことばかりの人生の中で、ちょっとは大事なことを見つけられているのだろうか。自問自答させられるが、答えはやはりまだまだ霧の先の中にしか無く。やがて到達できるものやら、できないものやら。
(2018.5.14) (レビュアー:大島栄二)
 


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