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小袋成彬
『Daydreaming in Guam』

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 「分離」されたまま混ざり合うことのない夏至が続いていた錯覚がする。このご時世で禁忌なタバコやお酒やモノクロームの語りなどを織り込みながら、小袋成彬は駆け抜けた。目を開ければ、マチズモの強嵐、押し付けられるメディアの取捨選択。「正しい」はないままに、N.O.R.K.時代の彼を知っている人より、宇多田ヒカルのプロデュースで名を知った人も少なくないと思う。昨年は大きなイベントにもよく出ていた。『分離派の夏』には数多のオマージュが出てくる。川端康成、三島由紀夫、モノクローム、自覚する制御・消費されている自身への危機感と派生する創作のための歩み。まだまだこれからだとしても、表現は少なからず周囲に妨げられるものではないと思う。それこそが表現で、表現している自身はいつも分離しては内省している。我が儘に突き通せば、共感の閾値をなぞる。同調ではなく、即応ではなく。ややこしいコードを超えて、「ぼくと、きみ」のトラジェディを昇華させる。これこそが今の時代に於ける解き放たれた文学・哲学的なうたなのだと思う。芸術ははいつでも殺伐とした社会の外で誰かを赦す。平成の寂寞たる終わりに。

 そして、彼の2018年のベスト・ソングスを見ていると、如何にもで感慨深くなる。カニエ、ドレイクなどのビッグ・ネームを包含し、ヒップホップが多い中に、彼自身の「E.Primavesi」が選ばれている。

 「Daydreaming in Guam」のサウンド・ヴィジョンの湿気に心底、感動した身としては抒情詩の中に私小説的な音韻を詰めてゆくのか気になりもするが、「分離」した場所で集まる人たちが求めているのはただひとつ、ナラティヴなのだと思う。そういう意味で2018年はよく聴き、何かあるたびに古典を読み直すように聴き返すと思える彼の生身が表れている一端だと思う。ゆえに、これからの日々にも必要な物語の破片は彼が持っていると希っている。
(2019.2.4) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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