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THOMAS CAT『戦争はだいぶ前に終わってる』
【反戦をテーマにした重めの楽曲と、それを支えるパフォーマンス】

戦後っていう。75年ほど前の壮絶で悲惨な戦争を2度と繰り返さないためにと人々は様々な努力をしてきた。戦後。平和が続いて75年。そんな中で、「現在はあの戦前の雰囲気に似てきた」という話がチラホラと聞こえてくる。

悲惨な戦争の話をする時に、なぜ当時の人たちはそれを避けられなかったんだ、竹槍で爆撃機に抵抗できるわけなどないだろう。もうこれ以上戦争を続けたって勝てやしないってわかってたんじゃないのか。自分が死ぬことをわかってて特攻するとか理解できない。そんなことを普通に思う。頭おかしかったんじゃないかって。しかしそのあきらかに頭おかしいことが実際に起こったし、国内の人は誰も止められなかった。自分の子どもを次々と軍隊に差し出した。嬉々として自分の子どもに「死になさい」と言った親もいただろうが、悲しくて悲しくてやりきれなかったのに、やっぱりほとんどの親は戦争に行かせたのだ。それなのに誰も止められなかった。気が狂ってたんじゃないかとか、軍国主義だったから意見など言えなかったとか、そういう解説はある。だが今のような民主主義の世界で、それでもなお国家主義的な方向に傾こうとしているのを止める術がなかなか見つからない。それで、戦前の空気に似ているとか言われ始める。

いったいどうなるんだろうか。

岡山で活動する4人組ロックバンドのTHOMAS CAT。そのYouTubeチャンネルにはこのMV1本だけが公開されているが、チャンネル自体は2015年に登録されているので、そこそこに活動歴のあるバンドなのだろう。Twitterアカウントも2016年には始まっているし。しかし彼らのHPも見当たらず、音源のリリース情報に辿り着くことも出来ない。こうなってくると本当に楽曲とMVの中のパフォーマンスだけで評価する以外に無いのだが、このどこかの倉庫のような空間で演奏している彼らからは特別な何かというものはそんなに突き刺さってくるわけではない。しかしボーカル松本の常に全力で歌ってるんだぞといわんばかりの大きな口の動きがとてもイイ。多少顔面の内側に巻き込むような声の特徴があるのに、感情が表に出てくるのはこの全力さが大きく影響している。比較するわけではないが、歌唱法はB’zの稲葉浩二に似た系統。稲葉がどんな高音でも地の声のままで突き抜けるのに対して松本の場合はファルセットに展開してて、そのファルセットが結構艶っぽくて耳ざわりがいい。ギターのソロフレーズも歌バックのカッティングフレーズもキレが良くて楽曲全体を締まったものにしている。だがそういう様々なナイス要素を脇に置いておいて、ボーカル松本の懸命に歌う様子が、この曲にリアリティを与えている。歌詞の内容的にも質実剛健的な大きなテーマを持った楽曲で、そういう曲の場合パフォーマンスに妥協があればあっという間に容赦なくリアリティが失われてしまう。その点、THOMAS CATのパフォーマンスはこの大きなテーマに耐え得る力がある。

(2020.5.15) (レビュアー:大島栄二)


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review, 大島栄二

Posted by musipl