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落合渉『その髪とラブソング』【知らない間にこちらの気持ちがハラハラさせられている、緻密で無欠なラブソング】

この人の声の安定的な不安定というか、不安定的な安定というか、常に揺れているような声なのに1曲として通して感じるのは安心感のようなもので。このギャップってなんかすごいなあと思わされる。これをどういえば伝わるのかよくわからないけれど、例えばGacktとか全盛期のキムタクのようなある種完全無欠のような人にラブソングを歌われたとして、歌ってる人が実際にどう思っているかは別としても、「オレに任せれば大丈夫だぜ心配ないぜ」って思ってるでしょ絶対、と感じるのは仕方なくて、だから、そういうのは安定的な安定。そういう人が歌唱の点でも完全無欠なら、歌にも自信がみなぎってて、ああもう完全に任せますわ〜としか思えなくなる。しかしラブソングが表現すべきことってそういうものだけじゃないはずで。完全無欠な人間なんてほとんどいないわけで、そういう相手を信じるためには信じる側の勇気が必要になる。その勇気を出すためには多くの駄目ポイントの中にキラリと光るたったひとつの圧倒的長所を見つけなきゃならなくて、客観的に見ればそんなの長所でもなんでもないものだとしても、盲目的に信じる自分力と、信じさせる相手のほのかな雰囲気。それが偶然にマッチしさえすれば、ラブは成立するのだろう、たとえそれが地獄への一本道だとしても。

この落合渉という人の歌にはそんな信じられる何かがある。具体的に何だと問われても明確にこれだとは言えないんだけれど、聴いていてホッとする。曲の中には歌が揺れている部分もあってハラハラするのだけれど、それが下手というのとは違った揺れ方で、だから心配するわけでもなく、興醒めすることもなく、ただハラハラする。そのリスナーのハラハラ感が、歌への思い入れにつながるし、惹き付けられる。演奏もごく限られた楽器だけが鳴っている部分と一斉に多くの楽器が鳴る部分とが交互に流れて、曲にメリハリがついているし、それも各パートパートで入ってくる楽器の数や種類、演奏の表情が細かく違ってて、だからそこにメリハリをつけてるなと気づかれることもなく、ただの風景の違いとしか感じなくて、その間にこちらの気持ちがハラハラさせられている。パッと見ではそんなに完全無欠なシンガーではなさそうなんだけど、実は結構緻密で無欠なアーチストなのかもしれない。

(2020.9.15) (レビュアー:大島栄二)


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review, 大島栄二

Posted by musipl