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Wu Mang『ミラー』【聴く者自身に不思議が存在するのではないのかという視座を植え付けようとする】

不思議系の音楽というのはあって、正確には不思議系のアーチストなのだが、そういう伝統的に存在してきた不思議系とはまた違う系譜の不思議な音楽。Wu Mangとはどんな人なのだろう。知りたくても彼ら(彼?)にはオフィシャルHPというのがなくて、TwitterにリンクされているのはCDとTシャツを売っているだけのショップページだ。それでもfacebookには「YOUR ROMACE、MISTAKESのメンバーとして活動した宮内シンジ」とあって、なるほどこの動画ページに作詞作曲にShinji Miyauchiとクレジットされている、その人がWu Mangなのかと推測される。だが、そこまでだ。YOUR ROMACEやMISTAKESというバンドの情報もそんなにあるわけじゃないし、この宮下シンジという人の個人情報を深堀したところで、このレビューが何か深みを増すようなことはないのではないかと考える。

Wu MangのYouTubeチャンネルには現時点でこの『ミラー』を含めて3曲が公開されていて、全部聴いてみたところ一貫したWu Mangの特徴があって興味深い。どれも一筋縄じゃいかない感じがあって、不思議といえば不思議なカテゴリーに含めることはできるけれど、この『ミラー』は1曲だけなにか別の世界で鳴っているような不思議さを持っている。他の3曲は、「オレの世界は不思議だよ」と言っているけれども、距離を置いて見ている限りそれほど不思議というものではないし、その世界がこちらにまで浸食してくることはない。しかし、この『ミラー』を聴いていると、一見普通の洗練された音楽のように聴こえるのだが、1曲が終わる頃にはなんともいえない不安感に襲われている自分に気がつく。そうして聴き直すと、普通の中に潜んでいる狂気のようなものをさも平静であるように表現しているようで、その狂気にいつの間にか引きずり込まれようとしていることに気づく。歌詞の中で「僕らはミラー、誰もがミラー」と繰り返されるのだが、この曲全体が鏡の中の世界のようであり、この世と同じでありつつも正反対という鏡の不思議さにあらためて気づいた時のような、そして今この鏡を見つめている自分が実在で鏡の中が、現実が投影されただけの虚像だとどうして言い切れるのだろうかと考え始めた時の不安のようなものが、曲として表現されているように感じられる。だから、この曲を聴いているこちらが実在しているのかどうかがわからなくなってくるのだ。

MVではまともに歩くことさえできない人がずっと不自然に前に向かって歩いていく。傾斜のある部分を進むのは普通に難しかろう。だが平面に立ってもなおまともに歩くことができずにいる。巨大資本が制作する映像ならば、この不思議なモニュメントをわざわざ作って撮影するだろう。そうすれば本当にどこなのかわからない想像の世界が作り上げられる。SFだ。しかしこのMVでは予算の都合でこうなったのか、それとも意図的なのか、普通の民家が不思議な構造物の向う側に当たり前のように映り込む。それがかえって不思議感を強調する。

多くの不思議系は、普通のリスナーと不思議系の間に明確な一線があって、まるで動物園で異国の動物を見るかのような立ち位置をリスナーに与える。だがこのWu Mangは、特にこの『ミラー』という曲は、明確な一線など存在せず、聴く者自身に不思議が存在するのではないのかという視座を植え付けようとする。その点で、ニュータイプの不思議系サウンドと言っていいのではないだろうか。

(2020.11.16) (レビュアー:大島栄二)


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review, 大島栄二

Posted by musipl