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奥村愛子『everblue』【ひとつふたつの巡り合わせがなかなか難しいことなのだけれど】

切々と歌い上げるバラード。歌上手いなあと思うし、上手いから、歌の世界がひしひしと伝わってくる。どんなシンガーなんだろうと調べてみると、結構キャリアもあるメジャー経験の人だった。こういうバラードに強みのある人なのかと思ったら、この曲の2年前に公開してた曲はタイトルが『まやかし横町』で、少しばかり昭和歌謡テイストのある、ダークな色合いも持ったポップソング。最近ライブDVDをリリースしたそうで、そのライブ動画がいくつかダイジェスト的にアップされていて、それを見てもバラード寄りというよりはアップテンポでパンチの効いた歌をメインにパフォーマンスしているという印象。そういうのを確認した上でこの曲を聴くとまた違った印象で聴こえてくるから面白い。

やわらかくてか細い声を出すにはそのか細い声に必要なだけの声量でいいのかというとそうではない。それは軽自動車で100km/hのスピードを出すのと3000ccの排気量を持った大型車で100km/h出すのとがまったく違っているように、大きくて力強い声を出せる人の方がか細い中の微妙な力加減を段階的に的確に使い分けた表現をすることができる。そのことを思い出しながらこの曲を聴くと、たしかにゆっくりとしたテンポの中で力の入れ方、感情の込め方を場面場面、小節小節で細かに調整しながら変えながら歌っていることがわかるし、その作業を苦労として解らせないように歌っている。鳥が水面下で足をバタバタさせているのを気づかせずにのんきに水に浮かんでいるみたいな感じで。もしかするとこの奥村愛子自身も細かな調整をしているということに気づいていないんじゃないかと思えるほど自然にただ歌っている。

すごく実力を持ったシンガーなんだろうなと思う。実力があれば誰だって有名になって絶大な評価を受けるなんていうのは絵空事で、現実には実力に相応する評価を得るには運も必要。昨今大注目のLiSAなども、鬼滅の刃の曲に出会わなかったら今のようなブレイクを果たしていただろうか。無論その曲に出会うための準備もしてきたし、それ以前から武道館を満員にするほどの人気を博していたが、それでも鬼滅と出会えたのはある種の幸運あってのことだろう。鬼滅以前のLiSAと安易に比較するのは適切ではないし、その幸運をつかむためには歌の実力だけではないさまざまな要素が絡んでくるものだが、そういうことを理解した上で、もうひとつふたつの巡りあわせ次第で実力相応の評価を得ることができる人は世の中にたくさんいて、この奥村愛子という人もそういう中の1人なんじゃないだろうかと感じる。もちろんそのひとつふたつの巡り合わせがなかなか難しいことなのだけれど。

(2021.1.15) (レビュアー:大島栄二)


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review, 大島栄二

Posted by musipl