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はいから東京『陽炎』【心地良さと、それを心地良いと感じることへの違和感との狭間】

東京を歌っている曲にはついつい反応してしまうのだが、この場合はバンド名に東京というワードが入っているのであって、曲自体は東京と特に関係があるわけではない。しかし、MVを眺めている限り、東京の不思議な時間の流れを感じさせてくれて興味深い。バンドのボーカルと思われる若者が夜の街を徘徊している映像が淡々と流れて行く。曲の終わりに近づくにつれ空が徐々に明るくなっていく。電車も走り始め、眠っていた街が動き始める予兆を感じさせる。では、東京という街は眠るのか。このところのコロナのせいで人々は不要不急の外出を控えるように促され、促されずとも自ら籠るようになっている。SNSには本来往来する人が絶えないはずの光景が無人になっている写真が多くアップされている。それは今だけの一時的な様相だと思うし、コロナ前とコロナ後で世界はまったく違うものになったとしても、少なくともこれまではそこに人はいたのだし。それに、今だってコンビニは開いている。午後8時以降の不要不急の外出は控えろという中で、コンビニに立ち寄るのは不要不急ではないのかという疑問はあるものの、多くの飲食店が営業自粛を迫られる中、コンビニは相変わらず24時間営業を続けている。とはいえ、人が少なくなったのは事実で、SNSにアップされる無人の光景は合成された作り物でもなんでもなく、普通に広がっている現実だ。

この曲を聴いていて、思うのはこの軽やかさだ。とてもいい。いわゆるシティポップというジャンルに含んでいいのだろうか。サウンドだけで考えればシティポップ以外には有り得ないと思うのだが、この軽やかなサウンドとは裏腹に、全体をどことなくの暗さが覆っている。それはまるでロックとよばれる音楽ジャンルによくある反逆のイメージ。それでもいわゆるロックのような直線的で直情的な反逆とは違って、まろやかな反逆。反逆というよりは疑問といった方が適切だろうか。

   意味のない言葉だけで
   僕と話そうよ
   夜の街 昼間の熱が
   冷めたあと 空っぽになって

こんな歌詞が、ああ、人ばかり多いのに他人との距離が感じられて仕方のない街の空虚さを表しているよなあと思う。つながっているようで、いざとなればすべてを断ち切っても同じ街で生きていられる。そのことの心地良さと、それを心地良いと感じることへの違和感との狭間で揺れている人々の心模様を歌ってくれているようだ。その揺れ動くさまを、陽炎としてタイトルにしているのだろうか。そんな揺れ動く不安定な心持ちを、キーボードを中心とした軽やかな、ハミングのような音の重なりが優しく包んでいるようでとても清々しい。

(2021.1.19) (レビュアー:大島栄二)


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review, 大島栄二

Posted by musipl