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きのこ帝国
『東京』

 「東京」の一言で何を考え得るのだろうか。桑田佳祐は、あえてか、暗がりの慕情と悲しみを見出すような曲を作り、サニーデイ・サービスはさらりと爪弾くように風を攫い、外部からのストレンジャーとして、それでも、かろうじて繋ぐことができた“あなた”への想いを繋いだくるりの「東京」など、デモーニッシュなフレーズを持つ都市であり、記号性を帯びる。筆者も、「東京」という場所はいまだによく分からない。何度も行ったことがあるけれども、関西圏、九州、むしろ、異国に居た回数が多い、いわば、遠国の恋人に向けて辞書を横に書き詰めてゆくところがあるからかもしれない。以前に、ファンの方のセルフ・レビューでも記事になっていたが、きのこ帝国が「東京」という曲を衒いなく出した。今、隠喩としての節電下、暗がり、痛みと幾つもの制限の中で心身的な重みを負わざるを得ないこの日本の瀬で真っ当に視力矯正もせずに見つめてきたバンドのひとつの転換点が来たとも思う。それは、これまでのきのこ帝国に誰かが求めていた何かを裏切る要素も含み、そうではなかった人たちを巻き込んでゆくだろう。暗渠から眺めつつ、これまでとは違うポップネス、シューゲイズ・サウンドー俯き続けても、終わらないことを知ったボーカルの佐藤の細やかな感性が東京を通して、“あなた”を見つけ、今はその瞬間の昂揚に陶然とする段階でもあるのだろうか。としたならば、これがバンドとして桎梏になるのか、新たな飛躍のための踊り場なのか、気にもなる。
(2014.9.25) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


   
         
 


 
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