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RIP SLYME
『POPCORN NANCY』

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 ある種の伝統継承、十八番はオリジネイター以上に継承者が居ないと成立しないが、偉大な継承者が一人で宏大な地平を築き上げることもある。「常人の所作じゃない」、「天才の所業だ」と言われるようなきざはしは、それに値するのだろうが、昨今は“伝統”というフォーマットだけでは成立し得ない禁忌がはられるケースも出てきている。藝術や、芸術活動を通じた行為はときに公益や協賛者に守られた形で歴史を繋いでゆくが、観衆、聴衆、またはそういった諸事に興味がある人たちが通りすがる確率論を少しでも増やさないといけないこともあり、ストリートに投げ出されるのもしかり、で。ファン・ベースの中で手堅くまわる聖域も勿論、否定できないが、そのファンを作るためには多大な辛苦が付き纏うからで、でも、例えば、フラッと落語を観に行こうか、歌舞伎を、オペラを、なんて動機付けは持ちにくいかもしれず、それは音楽が高尚、高尚じゃない、など差し引いて、行くまでの手続きがそこまで難しくない、からの副因を敷かないといけない。
 1曲も知らなくても楽しめた、なんてライヴの経験と同じように、題目は分からなかったけど、あの落語家のは良かった、オペラって小難しくないんだな、と、もっと並んでもいいのではと思う。音楽のミクスチャーなども行なわれ、学校行事でプロの音楽家が来たり、と機会も増えたようで、じんわりと「頭の中」で噺を愉しむという意味では派手さはないとは言える。ただ、伏線と呼べるような小ネタがじわじわと活き、最後でカタルシスで落ちるなんてことはあるかもしれないと切に願う。同時に、今の時代にNGになったからといって、その言葉の周縁で呼吸している人は居るのだから、という忖度を寄せつつ。
 リップ・スライムとはもはや、日本のシーンでヒップホップ・グループとしては盤石なキャリアを固め、各自のソロ活動も盛んなのは周知だろう。ブレイク・ポイントたる「One」のロマンティックなシリアスな寓話性、矢継ぎ早のハイに弾けた「楽園ベイベー」はサザン、今また再評価の瀬にあるTUBE、そして、湘南乃風と並び、相変わらず、サマーブリーズを吹かせつつ、04年の「GALAXY」、07年の「熱帯夜」と徐々に深い闇に潜ってゆくようで、R35の必須音楽のような感じになっていったのも興味深かったが、ヒップホップがR&Bとシンクし、尚且つ、適切な形でセクシャルに、軽妙にアート・センス巧みに届けるようとする道の整備がうまいところが洒脱で、この久しぶりの夏に合わせた新曲もそう。
 整備が綺麗、ということはやはりクリエイター能力の高さ、プロモーション・サイドの呼吸、バジェットから拡がる影響過程までシビアに見極めているという証左以外の何物でもないが、このMV含め、決して軽薄に抜けが良いわけではなく、野暮ったさや渋みがどこか残る。だからこそ、以前の青天井のように無邪気な「楽園ベイベー」じゃなく、この「POPCORN NANCY」はとても真摯に遊んだ曲で、その範囲の中に“成熟への不義理”、“ずっと子供のままで居る夢想”というような字義をより溶解せしめる気がする。キャリアを重ねて、なお追い求める夏の象徴的な“ナンシー”(という、記号性の高いモティーフ)を見定める視座というのはどうにも艶めかしさの閾値を振れてくる。
 艶話がいつの時代も尽きないように、彼らが“粋”という存在を邁進している頼もしさを感じる曲だと思う。
(2015.7.25) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


   
         
 


 
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