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ペントノート
『MAGIC BUTTON』

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 どこまでも霞がかかったように手が届かないようなもどかしさがMV全編を通して拭えない。画面にはアウトラインとベタ塗りトーンのようなエフェクト、こういうの何ていうんだろう、コミック風画質に仕上げるみたいな感じのエフェクトがかけられていて、この人たちは一体どんな細かな表情をしているんだろうというのがわからない。歌にもリバーブ的なエフェクトがかなり深めにかかっていて、リアルな生音からはかなり遠い音の作りになっている。そういうのがダメだというつもりは毛頭ない。それはメイク全否定のスッピン主義みたいなもので、そんなのが良いなんてまったく思ってない。それに、こういうのはかなり手がかかるのだ。撮った映像と録った音をそのまま並べてOKというのなら簡単だ。実際にライブハウスで三脚を立てて固定カメラのライブ映像をそのままアップしている動画は多く、それはとても楽な作りだけれど、人に聴かせる見せるという上ではやはり単調だし、つまらない。音にしたって普段聴いている曲の99.99%は何らかの工夫とエフェクトが加えられている。それは、元のダメなところを誤摩化すという意図ではなく、本来あるステキなところをきちんと聴かせるための作業だ。バンドのレコーディングでは、録音時間よりもミックス作業の時間の方が普通は多い。それほどにミックスで手を入れることは必要だし、大変なのだ。映像だってそう。カメラで撮ったのをただつなげればいいのならこんなに楽なことは無いけど、見る人が飽きないように細かなカット割りをして編集する。このMVほどではなくてリアルな感じになってる映像だって、明るさやコントラストがいじられてないことなどほとんど無い。明るさやコントラストといった基本事項だけじゃなく、特殊なエフェクトをいくつもかけたりする。ひとつひとつの効果にそれぞれパラメーターがいくつもあり、いちど数値設定をしてからレンダリングをして、見てみておかしかったらまた数値設定からやりなおし。あるコマではOKでも、数秒後のコマではダメとか、そんなこともよくある。編集するコンピュータのパワー次第で、5分の映像にひとつエフェクタをかけた場合のレンダリング時間が10分以上になることもしばしばだ。それらをいくつも重ねるのは、けっこうしんどい作業だったりする。そういう取り組みをした結果、こういう映像は完成している。それぞれの映像にはそれぞれの意図があって、それはアーチストや作家の思惑なので誰がどうということではない。アーチストの表情をちゃんと見たいというのがリスナーの正当な欲求だとすると、バンドメンバーが一切出ずにモデルさんによるイメージ映像だけのMVなんてクズ中のクズということになるが、実際にはそんなことはなく、モデルさんの登場によってアーチストや楽曲の価値まで上がるようなMVだって普通に存在する。
 そういうことをすべて理解したつもりの上で、このMVには手が届かないもどかしさのようなものを感じてしまう。それはもしかしたらこの曲が、「身近でフレンドリーなアーチストが君のすぐ近くでリアルな感じで歌ってくれているよ」というようなものではなく、「ここではないどこか遠くで、もしかしたら想像の中でだけ歌っているパラレルワールドでの出来事」のようなものを意図しているということなのかもしれない。HPのバイオグラフィには「ペントノートのコンセプトの一つは仲間探しの旅」とあって、彼らはいつも「ここではないどこか」を旅しているということを、音楽と映像であらわしたりしたのではないかなんてちょっと思ったりする。
(2019.5.2) (レビュアー:大島栄二)
 


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