ママレイド ラグ 田中 拡邦 インタビュー

『音楽とは僕に取って、
   背景に無言で流れているものなのです』

―6枚目となるオリジナル・アルバム『So Nice』をめぐって  (取材:文=松浦 達)
  堅実に、キャリアを重ねてきたママレイド ラグ。現在は、田中拡邦氏のソロ・プロジェクトとなっているが、このたび、6枚目となるオリジナル・アルバム『So Nice』を5月14日にリリースする。そこで、musiplとしてはいち早く彼の言葉を届けたいと思い、メール・インタビューを試みた。  

今回は敢えて、現代の制作環境(コンピュータ・ベース)でどこまで出来るか、試してみたかったのです

松浦:今回は宜しくお願い申し上げます。まず、6枚目となるアルバム『So Nice』がリリースされますが、どのような感慨を持っていますか?

田中:SONY時代は4年にフルアルバム一枚という、超スローペースでしたが、〈ALDENTE ENTERPRISE〉レーベルを立ち上げてからは、数年で4枚目です。今回は前作『Day And Night Blues』から1年半空いたので、遅かったな、というくらいの感じです。

松浦:毎度、作品を聴かせていただくたびに田中さんの拘られている音の良さに唸らされるのですが、2011年の『LIVING』のリリースの際のコメントが印象深く、残っています。特に、“ほとんどが、自宅のデスクトップ(あるいはノート・ブック!)コンピュータでサウンドをこしらえてしまう現代にあって、この「LIVING」はかなり時代に逆行した制作過程を経たものであると言えるだろう。”という点で、『So Nice』では録音作業や拘った点などありましたら、教えていただけますか?

田中:前作の『Day And Night Blues』はさらに逆行して、ほとんどの音をアナログのテープを回して録音しましたが、今回は敢えて、現代の制作環境(コンピュータ・ベース)で作っています。それでどこまで出来るか、試してみたかったのです。

松浦:前作『Day And Night Blues』から1年半と早いリリース間隔で、スムースに作業がいったようについ推察してしまいますが、特に、苦労された点はありますか。

田中:本当は昨年中に仕上げる予定が、楽曲プロデュースの依頼や楽曲制作の依頼があったり、また、ほとんどの期間を大橋トリオのギタリストとしてツアーに出ていたので、時間がとれなかったわけです。しかし、その合間に曲作りはしていたので、マテリアルは十分揃っていました。レコーディングがスムーズにいく、という事は僕にはあり得ません。心情的にそうであっても、アレンジを見直したり、メロディをブラッシュアップしたりと、何度もやり直しながら作っていくわけです。今回はこれまでで最短の製作期間でしたが、それでも丸2ヶ月費やしているわけです。

松浦:今作には事前にライヴでは披露していた楽曲を含めて、10曲収められていますが、私は、ママレイド・ラグのアルバムには時おり、構成の妙から短篇小説集を読むような感覚をおぼえます。「ニースに私を連れてって」という美しいポップ・ソングから始まりますが、どの曲作りから具体的に始まっていったのでしょうか。また、キーとなった曲はありますか。

田中:まさに「ニースに私を連れてって」から始まったレコーディング・セッションでした。アルバム制作というのはパイロットとなる様な、あるいはアルバムを象徴する様な楽曲が出来た時点で、大きく方向性が決まり、舵を取り、船が動き出していきます。「ニースに私を連れてって」が出来た事で、あまり、ビンテージの質感に凝るのではなく、割と現代的なアプローチでいく、というのが、決まりました。とは言っても、一般的な感覚からすれば、十分、懐かしい感じがするかもしれませんが…。


6th ニュー・アルバム "So Nice" 予告編


詞に関しては、「書けない」、という事が無くなった事がまず大きいですね

松浦:HPの今年の1月24日の日記で、「今を今と思えない病」について言及されておられて、自分は昔からずっと、「今」自分に起こっている事にいつもリアリティを感じることが出来ない。それでも、「今」を出来る限り最善を尽くして、生きよう、という強い言葉があります。近年の作品では歌詞に今に対しての想いが非常に色濃く出ているのも感じます。また、当初からの抒情性の美しさや情景描写の巧みさも保持されながら、直截的な言い回しやフレーズが増えてきているのも感じます。「愛のしらせ」で「今なら言える」というフレーズもありますが、キャリアを重ねてきて自身の作られる歌詞への対峙の仕方はどうなってきましたか。

田中:詞に関しては、「書けない」、という事が無くなった事がまず大きいですね。20代の頃は、三日三晩、まともに食事もとらず、シャワーも浴びず、ボロボロになるまで絞り出さなければ一曲の詞が出来ませんでした。いま、読み返してみると、その、身を削って書いた良さも感じられるのですが、今は、書こうと思い立てば、30分~1時間で必ず仕上げる事が出来ます。出来ずに日を持ち越す、という事が無いのです。その分、ディテイルに凝ったり、さらに磨き上げる余裕ができたり、というのはあります。また、その姿勢から、違った角度から書いてみよう、という方向性も生まれているのだと思います。

松浦:では、今作で特に、自身でよく書けたという曲の歌詞はあるでしょうか。

田中:「Lazy Girl」、「あの月の向こうまで」、「Oh My Girl」はスタンダードの様な作風、一方、「僕の世界」では僕らしい、私小説の様な雰囲気を出すのに成功したと感じています。



大滝さんの音楽に対する「新譜というものはない、
すべて既発曲のオマージュである」
という考え方の影響は大きいです

前のページ | 1 | 2 | 次のページへ

記事トップへ戻る