2017年のmusipl.comでの6月アクセス数上位10レビューはこちら!


 
1位 CORNELIUS
『あなたがいるなら』
 コーネリアスこと、小山田圭吾が「うた」うだけで、ここまで胸の奥に響く何かがあるのは何なのだろう。音響美の細片への零落と映像の共振率を高めてゆくほどに彼はどんどん寡黙にときに「あ。」しか発しなくなくなり、または客演の歌手にうたを任せたりしながら、世界の中で受け入れられるオルタナティヴで先鋭的かつポップな日本人アーティストの存在としては稀有なものになっていった… (レビュアー:松浦 達
 

 
2位 宇多田ヒカル
『二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎』
 コラボってすげえな。いや、コラボって基本的には個性と個性のぶつかり合いなわけで、言ってみれば音楽格闘技。どちらの技が相手を打ち負かすのか(結局勝ち負けの世界から抜け出せないのか!)なのだが、どんな異種格闘技戦に参入しても負けることはないだろうと思われる2人がコラボですよ。ええ、スゴいですよ。2人2様の武器みたいなのを惜しむことなく繰り出して相手をなぎ倒そうというような迫力を感じます… (レビュアー:大島栄二)
 

 
3位 LUNCH-Ki-RATT
『おもちゃ箱クルーズ』
 底抜けにハッピーなサウンド。もし仮にバンドの側にほんのちょっとの照れがあれば見てる方が恥ずかしくなってくるものだが、それがまったくなくて、見てて楽しい気分になってくる。きっと心の底からこのハッピーを体現しているのだろう。素晴らしい。男性ボーカルのヤマダヒロミチがこれでもかと言葉を詰め詰めにした歌詞を速射砲のように繰り出して、聴いててもうお腹いっぱいという気分になったところで… (レビュアー:大島栄二)
 

 
4位 Mondo Grosso
『ラビリンス』
 ナチュラルで自然な感じのダークネス。こういうのが一番怖いと思う。いかにも凶暴な風体の人が金属バットを持ち歩いてたら注意して避けて歩くけれど、普通の印象の人が凶器を持って歩いていたら、何の注意もすること出来ずにすれ違うだろう。いや、それはけっして仮定の話ではなくて、きっと毎日の生活で頻繁に起こっていることなんじゃないだろうか。それは具体的な武器としての凶器のことだけではなくて… (レビュアー:松浦 達
 

 
5位 work from tomorrow
『夜明けの花』
 サビのフレーズが頭から離れない。作曲の展開パターンとしてAメロ→Bメロ→サビというのは基本中の基本なのだろうが、昨今はそういう基本などすっ飛ばしてんじゃないのと思われる曲がとても多くて、またそういう展開に沿ってはいるもののその過程過程できちんと気持ちを盛り上げていっていない曲も多くて、だからこういうサビのところで感情のピークが来るような仕上がりの曲に出会うとちょっと嬉しくなる… (レビュアー:大島栄二)
 

 
6位 Ghost like girlfriend
『fallin'』
 イントロからスーパーカーの「YUMEGIWA LAST BOY」みたいで切ないな、とか、このスムースな音要素の各部にはニューソウル、AORなどのフレーズをこまかく想い出しつつ、結局は岡林健勝の甘いボーカルと詩のしなやかさ、サウンドスケイプからメロディーまでが此の日常の中に於ける音楽が今の時代に持つ疑問符に真摯に応対しようとしている姿勢に唸らされて聴き終える。そして、どこかロマンティックな彼岸の視角の… (レビュアー:松浦 達
 

 
7位 evening cinema
『わがまま』
 パロディーでもネタ元の詮索やパクリでもなく、2017年のセンスでロマンティシズムの機微を音楽でリプレゼントしてゆくevening cinemaのポップなたたずまいは嬉しい。サチモスのクールネスの膨大な層への受け入れられ方や、Yogee New Waves、never young beach、さらにはLUCKY TAPESなどユーフォリックで軽やかで慕情を含んだポップネスが20代半ばで共振している健康な切実を想うと、まだまだ過剰で… (レビュアー:松浦 達
 

 
8位 Noh Salleh
『Angin Kencang』
 このノ・サリの音を聴いていると、その作品の息吹に似通ったような、そして、異境への移動、居住の途程としてでも、少しのあいだ、居た磁場への引力が可視されるとともに、逃れられなくなる様な白昼夢的な祝祭の中に漂流するような気分になる。そこも狙ったかのように、このMVは日本の名古屋の田舎で撮影されており、異境から日本をフィルタリングで捉えたときに起きる妙なズレ、遠心性を感じる情景が巧み異化作用として… (レビュアー:松浦 達
 

 
9位 Split end
『ロストシー』
 サビのフレーズが繰り返し繰り返し。繰り返されることでイメージが膨らみつつ同時に固定する。この曲がヒットするかどうかは別としても、ヒットするには欠かせない要素をちゃんと持っているなあと感じる。歌には意味を込めることは出来るが、じゃあ意味が必須かというとそうでもなくて、この曲では歌の意味よりも言葉の響きの印象の方に圧倒的に重点が置かれているようで、それがリズムとリフレインによって強調され… (レビュアー:大島栄二)
 

 
10位 Alfred Beach Sandal + STUTS
『Horizon』
 ミニ・アルバムとしては初となるAlfred Beach SandalとSTUTSのコラボ作からの柔和なMVにして、ceroの荒内佑のローズ、ミツメのnakayaanがベースで参加したカームな空気感と、麗しく甘やかに照らされる視線に溢れる曲。そして、LAでの光景がメインになり淡いざらつきが情感をあおる。自動制御の車ではなく、あくまで程よい道をただ進むなかでのメタファーとしての地平線、メロウネス、胸の苦しさ、熱量… (レビュアー:松浦 達
 

 
次点 Saucy Dog
『wake』
 どこかで聴いたことがあるような気もするが、じゃあ誰でも奏でることが出来るのかというとそうじゃないだろう。それはどんな音楽なのかというと、普通にポップでロックでありながら、湿度を適度に保った、そんな曲。最近はこの世代のロックバンドも本当にたくさん出て来ていて、ほぼすべてが筍の背比べ、団子レース状態でそこから頭ひとつ抜け出すことは至難の業だが、こういう湿度の違いをちゃんと持って… (レビュアー:大島栄二)
 

 
編集長コメント
1位 CORNELIUS『あなたがいるなら』:コーネリアス、元気ですね。レビュー内でも触れられていたMETAFIVEへの参加は比較的知られている小山田圭吾の活動ですけど、個人的にはNHK Eテレの子供向け(?)番組「デザインあ」で、ひっそりとギターを弾いていたのを偶然発見し、うわあ、活動幅広いなあと、ホントびっくりしました。いや、今でもCDがたくさん売れるコーネリアス、ビッグだなあとホントに思います。

2位 宇多田ヒカル『二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎』:宇多田ヒカルと椎名林檎の組合せはさすがにびっくりしました。宇多田ヒカルのデビュー当時は浜崎あゆみと並んで歌姫と称されてましたし、その並びもスゴいなあと思ってましたが、宇多田と林檎の並びは想像以上に壮絶で、笑えない笑顔の異種総合格闘技のような恐ろしさを伴ってて、見てて冷や汗が出ましたよ。みなさんはいかがでしたか?

3位 LUNCH-Ki-RATT『おもちゃ箱クルーズ』:1位2位とビッグネームが続いた後に彼ら。多くのファンが熱心にアクセスしてくれたようで、地道ながら熱量を感じさせてくれるランクインでした。MVをまだ見ていない人には是非見てもらいたい、天井知らずの明るさとパワーを感じることができると保証しますよ。

4位 Mondo Grosso『ラビリンス』:満島ひかりのダンスが心に沁みる1曲。こういうの、画面に出てくるキャラクターに意識が向かってしまって曲そのものが入ってこないんじゃないかとか思ったりもしますが、満島ひかりは歌もうまい(そもそもFolderで歌手だった)し、そういうの含めて全部表現だなあ、上手いなあと感心します。男4人ロックバンドが顔出しせずにモデルさんを出演させるMVとは根本的に違いますね。

5位 work from tomorrow『夜明けの花』:京都で活動する彼らの曲がホント良いんです。ビッグネームがひしめき合った6月のmusiplの中で、こういうバンドが上位にランクインするのは本当に嬉しい。これからの音楽シーンを、こういう人たちが切り拓いていってもらえればとホント思います。

6位 Ghost like girlfriend『fallin'』:渋谷の街と下北沢の街を彷徨いながらという歌詞の内容とシンクロするMVがとても面白かったです。で、渋谷という街がシンボルにもなる建物や何かをいくつも持っているのに対して、下北沢というのは街全体の雑多な雰囲気だけで、これといったシンボルを持っていないということを再認識しました。本多劇場? じゃないですしね。なんでしょうか。個人的にはCLUB Queの1階のファーストキッチンを真っ先に思い出すんですけど、そんな人は少数派でしょうしね。

 今は梅雨の真っ最中なんでしょうか。台風もやってきたりで出かけるのも億劫なんですけど、梅雨があけたら連日の真夏日でしょうから、それもそれでなんだかなあという気分ではあります。京都は祇園祭が始まりますよ。みなさんもぜひ見物にいらっしゃってください。

(大島栄二)