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エレファントカシマシ
『RAINBOW』

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  明日なんていう日は決めるのはそう
  いつだって今日でも
  また国家予算内で死ぬの
     (「負け犬」、syrup16g)

  しかし今や、国家予算内で死ねるのだろうか。12月22日に、平成29年度の一般会計案を97兆4,547億円で閣議決定した。無論、過去最大規模でヴィジョンも不明瞭なところが多い。日本の歳入のほぼ半分が国債発行によって成立している中でのこと、特別会計の問題がクリアーになっていないこと、厚生労働省が纏めた人口動態統計で2016年度の子供の数が98万1,000人という過去最低レベルの見通しが示されたこと、100兆円に渡るお札(実紙幣)のグロスが越えたことをおさえておいたうえで、表向きは膨張する社会保障費への梃入れが目立つ内容ながら、防衛費は今年度より710億円増えた5兆1,251億円に、同時に、拮抗的に文化、教育、科学技術関連予算は5兆3,567億円になった。億単位で増減はあれども、マッシヴなものへより意識が割かれ、パッシヴな基礎研究や地域投資などは先まわしにしてゆく内容が色濃い。そんなこと言われないでも分かっていて、自己防衛して貯蓄して、国はあてにならないってことだろう、ではない。アベノミクスは実質、失敗だったという世徴を受け取る訳ではなく、投資家たちが日本円を市場で買い漁った結果の顛末だなんてもう大体、見えている。預金封鎖やペイオフなんて意味を調べたりしながら、わずかな額面で自己破産は起き、金融機関に置いておいてもなにもないから、とタックスヘイブンまではいかなくても、タンス預金に切り替えている人も多いだろう。

 そんな国家予算が組まれる中、年の瀬にせめて、2017年が兆しとしての朝焼けが見える音楽を、と考えていると、なぜか、彼らの存在が浮かんだ。編集長の大島氏が東日本大震災後の情感とともに綴ったレビューも是非、読んで欲しいが、30周年を迎え、また、加速度を増している。筆者としては長い歴史の中で各アルバムやその時々のモード、ライヴを想い返しもするが、年の瀬に、2003年にリリースされた彼らへのトリビュート・アルバム『花男』を聴き、考えていた。石野卓球による「浮雲男」のリミックス、怒髪天の「男餓鬼道空っ風」、冒頭に挙げたsyrup16gの「遁世」、銀杏BOYZ「悲しみの果て」など錚々たる面々が集まりながら、もう原曲解体どころか、見事にやりたい放題で、最近はスマートなトリビュートも目立つが、エレカシというバンドを象徴したような内容だった。

 初期のピリピリとしたライヴのときの彼らを知っている人から、宮本氏が頭をかきむしりながらとりとめなく話すさまがTVの音楽番組で見られるようになった頃、実験と模索を繰り返し進んでゆく在り方、そして、2015年の『RAINBOW』は見事に過去と今の、エレファントカシマシを未来に向けて投げかける内容で、特に、表題曲「RAINBOW」の疾走感は堪らなく、これを。「俺たちの明日」や他にも選ぶべき曲も踏まえながらも。
”悲しみの果て”を歌った人がここでは、

  流れゆく街の風 孤独を感じ
  落ちてゆくすげぇスピードで 深い悲しみの中
  ベイビー くずおれそうさ 面目ないね 陽だまりも宇宙も
  悲しみも喜びも 全部この胸に抱きしめて 駆け抜けたヒーロー

と、「深い悲しみの中」で熱唱する。

          ***

 エレファントカシマシは、日本のロック・シーンのなかで、やはり孤高で、あまたのバンド、アーティストから敬愛の念を示されながら、フェスやイベントなど大舞台にも出るが、良くも悪くも指定席があるようでなく、全体像からズレているようで、「ガストロンジャー」などで客を煽るときの姿は昔からの変わらなさ、無骨さを思う。その無骨さがまた魅力なのかもしれない。

 数知れない涙雨が降っただろう今年の先に、虹がどうか架かりますよう。その虹の方向に無事に対岸に渡ることができるよう、平穏な瀬がありますように。

(※動画が削除されていることを2018.4.24時点で確認しています。レビュー文面はこのまま残しておきます)
(2016.12.30) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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