Léonore Boulanger『Minuit』 Next Plus SongFoxygen『Follow the Leader』

羊文学
『春』

LINEで送る
 ネタバレになるのだろうか。でもきっとこれはこの歌の展開がネタバレになったところで、ネタとしての結論がバレれば価値が失われるというものではないので、きっと言っても大丈夫だろう。なぜなら、ここで描かれているのは話の展開としてのストーリーではなくて、ましてやオチのあるお笑いネタでもなくて、アートだからである。
 ボーカルのはいじさんが笑顔で「嫌い」というのを連呼する。そんな歌を聴かされて心地良くなる人がいるのだろうか。でも考えてみてくれ。歴史に残る文学作品というのは世の中のありとあらゆるものごとをありのままに見せてくれるものであって、嬉しいとか楽しいとか、いわゆるハッピーエンドばかりでないことは誰だって知っている。正視できない残忍さとか、救い様のない不幸とかが書かれ、それを読むことによって不幸な環境にいない人だって世の中の不幸を知ることができる。救い様のない不幸な環境にいる人がハッピーエンドの物語を読むことで希望を抱くことができるように、文学とは常に、体験できない現実を仮想体験できるひとつの装置である。だからバンド名を羊文学という彼女たちがけっして心地良くはない言葉を連呼すること、そのビデオで狂気の表情を敢えて見せることは、とても腑に落ちることだなあと思う。もっともこんな表現を敢えてする人たちが学校的な意味での真っ直ぐな青少年であるとはとても思えない。昨年末にベースが脱退し、それに対してはいじさんが「わたしは簡単な人間ではない」と自ら述べていて、ああ、やはり簡単な人間ではないんだなあと納得してしまった。簡単ではない人間の表現は周囲の環境を含めて理想的な形で推移することは稀で、何故なら大切に大切に育てた畑の作物を自らの足で踏みにじっていくような狂気が伴うからであって、だからその果実としての表現が一瞬であってもこうして一般の眼に触れる機会があったということは、考えてみれば貴重なことです。メンバーが脱退して彼女たちの表現がまた続いていくのかどうかもよくわからないし、当たり障りのない言い方をすれば、なんとか頑張って続けていって欲しいのだが、じゃあなんとか頑張るっていうのは言い換えれば簡単な人間になるということでもあるんじゃないかと、実も蓋もない言い方をついついしてしまいたくなる。それがこういう実も蓋もない表現をしてくれた人への誠意なのかもしれないという気もするのだ。でも頑張ってね。音楽続けることじゃなくてもいいからね。

(※2018.1.20日現在で動画が削除されているのを確認しています。レビュー文面のみ残しておきます)
(2017.1.17) (レビュアー:大島栄二)
 


  ARTIST INFOMATION →
             
 


 
 このレビューは、公開されている音源や映像を当サイトが独自に視聴し作成しているものです。アーチストの確認を受けているものではありませんので、予めご了承ください。万一アーチスト本人がご覧になり、表現などについて問題があると思われる場合は、当サイトインフォメーション宛てにメールをいただければ、修正及び削除など対応いたします。