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ニカホヨシオ
『亡霊たちの楽園』

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 雑踏を歩いていてあのスマホにイヤホンをして(だれかと)話しているときの声のトーンや内容に吃驚することがあったり、ホテルバイキングで自分以外が異国の人たちで全く聞き取れない言語の渦で大きな笑い声が響いていると何だか座りが悪かったり、エレベーターに乗ってボタンを押そうとしたらその上の鮮明な防犯カメラの自身に奇妙な違和を感じたり、何かがあったのに想い出せない場所が工事現場になっていて別の瞬間に想い出して振り返るとき、いつも亡霊たちに囲まれて生きていることを忍従させられる。「忍従」というほどでもなくそっとゾッとするくらいに亡霊たちの居る場所は地続きで確認しようと探したらもうなかったりする。幼少の頃に読み漁った星新一やアシモフなどのSFノヴェルの読みやすさで誤魔化される底抜けた現実のようで、何だか怖い。でも、とても安心してしまう。

 気鋭たるニカホヨシオという人は漂然ともしたたかな知性の持ち主だと思う。故・中島らもが柔らかいエッセイの後ろに膨大なシュールレアリスムの多大な影を背負っていたみたく、彼が描く「全部現実だ」としての形成される要素群は坂本慎太郎の諸作の流れからサイケやブルーズ、民族楽器が好きな今どきの若者らしい老成が揺らめいていて、「昆虫の言葉で愛を語ろう/水牛の背中で眠ろう/山羊を歩こう」なんてポエティックで蠱惑的ないいフレーズだなと思う。

 諦観が過ぎても峻厳が過ぎても現実は待ってくれずに歳月は更地にするだけで、「サルがサルの中を無茶してもタフなモーターで」と歌った偉大なバンドみたく、人が人をするだけで無茶ならばこの現実をもっと味わえばいいと思うような、自身からするとこういう音楽はとても居心地が良い。
(2018.3.23) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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