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SPANK HAPPY
『夏の天才』

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 気付けば、日本語を忘れてゆく。もっと精緻に脈絡を足すと、日本語の雑さを忘れて、行間を愛でるようになった。行間に侘び寂びや無常観や、アイドリングがあるはずなのに、そこさえも埋め立ててゆく直截的な政治性を帯びた言い方に中る。だから、英語や仏語、更には独語、ウクライナ語をなぜか読んでいる。「言い切ったら負け」だったのはポストモダンの亡霊への忖度どうかとかではなく、幽玄さの中のいい加減さが今は足りないと感じる。

 オルタナティヴ・メディアを愛読しているカナダ人の知己がミシェル・フーコーについて聞いてくる。パノプティコン型社会形成についてどう思うか、と。確かに、新しくできる社会は排除型と効率性を重んじるあまりにガラス張りの衆人管理型の店舗、街の作成を、してゆく。だからこそ、誰かは知らない誰をも批判できて、誰をも誰かに追い詰められながら、実のところ、識別範囲を弁えている人たちはどんどん楽になっている。何故なれば、そこに行かなくていいことを分かっているからだ。

 鴨長明の『方丈記』を英語で読めば、ニュアンスが足りないと思うが、今の災厄が多い瀬にはあのテキストは世界で響く人が居る。「As time goes by」というより、「Time passed by」。そこに「the」を付けるかどうかは個々内の環境性だろう。2018年の日本のガラパゴスの極北には星野源の『ドラえもん』も米津玄師の『Lemon』もDA PUMPの『U.S.A.』もRADWIMPSの『HINOMARU』も並びながら、ダンスというより、アファーマティブなダンスを固定椅子に用意させている。皆が躍る。踊るように、躍られて闇に。光に時に。

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 「Spotifyで作成させるプレイリストが盤石で、CDを買う気がしない」という人がいながら、アナログ、カセット、はたまた、温故知新を巡る人がいて、そこは世代格差ではなくて、国境を隔てても、文化への意識格差なのだと思う。実際、ドイツ、カナダ、ブラジル、インドネシアの知己と「感覚が合う」のは良い瀬なのかもしれず。はたまた、日本の空港で宇多田ヒカルの爆音で極北の湿度を帯びた「初恋」を聴くのはどこか辛い。それでも、地方のホテルのFMでふとこの「夏の天才」が流れると気持ちが揚がる。SPANK HAPPYの80年代的な軽薄さと菊地成孔のコンポージングは何だか今のSNSの速度から離れた人たちにこそ優しい気がする。詳細はググってみればいいが、SPANK HAPPY自体は多々なる変遷がありながらも、この今の彼らのペダンチズムでナードな雰囲気は都市の百貨店だけに忍ぶ訳ではなく、多くの日本に棲みながら日本なのかどうかさえ分からないストレンジャーたちにこそ響く想像を膨らませる。

 馴染みの場所が占拠されたなら、逸れたらいい。あまた起こる天災を、天才的なセンスで、それぞれなりに捉えてみれば、きっと面白くなる場面もある。今の、高度な知的クールネスとは誰かと「分かるよね」ではなく、「誰か」の意見とは違うよね、でもいい。そこでもぬけの殻になるならば、所詮、そういう地球儀やクラウド化された位置づけなのだろう。同じものを求め合いすぎると、最後は滅和する。それぞれの平和や信念は違いすぎるあまり。解釈の数だけ憎悪が産まれる未来に、もう少し希望じみた話を、残像に口紅を。

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 そして、あっという間に夏が来て、去る。酷暑が。その酷暑の中で打ちのめされる人たちに夏が愉しめる術は変性をあえて包含するといいと思う。同じ朝に、誰もと同じ朝食もいいが、違う朝に違う誰かと同じ朝食を求める人たちに思慕してみて、そこからの自身へのハプニングへ結びつけてはしゃげば、今日はもっと充実して、暗い報道群に毒されてなくて済むというのは言い過ぎだが、そこまで酷い瀬ではないのはその瞬時の切実が忘却の果てに往くのを感じつつ、なんとなくのらないといけない風を浴びている人たちなら、分別できるような。あなたのタイムラインと、全く違うタイムラインが健全であるよう。夏を無事に越せるよう。各々のドレス・コードな言語作法が護られるように。

   聞き飽きたダフト・パンク 芸者さんと物理学者
   預言者が告げる it’s alright 未来が 今来たみたい
                  (「夏の天才」)
(2018.6.18) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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