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キリンジ
『千年紀末に降る雪は』

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 年の暮れになると決まってかけるのがモータウンクリスマスのCDで。楽曲とパフォーマンスのクオリティももちろん素晴らしい名盤なのだが、それ以上にこの季節の音楽としては定番感というのが大切だと思っている。定番というのは世間ではこれを聴くのが常識というような横並びの定番ではなくて、自分はいつもこれを聴くという自分だけの定番という意味で。だから僕が聴いている音楽をあなたも聴くべきだなんてダサイことを言うつもりはないし、あなたにはあなたのクリスマスソングがあるべきで、それがたとえ山下達郎のクリスマスイヴであったとしてもそれを誰が責められようか。
 KIRINJIも20周年だという。KIRINJIがかつてキリンジと名乗っていた頃のアルバムの中に入っていたこの曲。とても哀しい雰囲気を持っていて。時代遅れとなったサンタの歌だという解釈があるが、サンタは時代遅れになったから哀しいのか。時代の最先端で人気絶頂であれば哀しくないのか。僕は、どんな者にも哀しみはあると思う質で、ようするにひねくれ者なのだが、他人に幸せを運ぶという人に幸せはあるのかというと、幸せを届けられたという自己満足だけで、結局手元には何も残らないのだろう。街には謎の赤い帽子をかぶらされてケーキやチキンを売る人たちがいて、彼らの仕事が終わる頃には通常の家庭の幸せな時間は終了している。じゃあその通常の家庭ってなんだよ。通常なんてものは幻想にすぎなくて、それぞれがそれぞれの暮らしを懸命に生きていれば、それが他人と横並びであろうがなかろうが、どうだっていいのではないだろうか。
 先月だったか、満月が話題となった。当時の政治権力を握っていた藤原道長が満月を見て「此の世をば我が世とぞ思ふ望月の虧かけたる事も無しと思へば」と詠んでからちょうど1000年後の満月だったとか。いかに権力を持っていても人はやがて死ぬし、1000年経てば栄華を誇っていた大邸宅も跡形なく消え去っている。栄華を詠った和歌という手法もすっかり時代遅れ。そんな無常観に通じる何かが、この曲にはあるように思う。哀しい歌だ。しかし絶望に満ちているわけでもなくて、どことなくほの明るい暖かさが底に流れている。雪降る寒さの中、誰もが求める暖かさというのは、そんなほんのりとした少しの暖かさだったんじゃないかということを思わせてくれる。  誰もに少しばかりの幸せが訪れますように。
(2018.12.24) (レビュアー:大島栄二)
 


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