阿佐ヶ谷ロマンティクス『所縁』 Next Plus SongDirty Projectors『Cool Your Heart feat. D∆WN』

ザ・モアイズユー
『トーキョー・トレイン』

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 「やっぱり東京に行った方がいいですかね」という問いかけを何度大阪のバンドから持ちかけられたことだろう。東京に26年暮らしてみた立場として、何の根拠も無い妄言を吐くとすれば、東京には幸せはありません。あるのはただ、便利と夢。それはもう、地方にはまったく無い規模で存在する、それが東京という街の魔力だろう。で、夢があるから、地方に暮らす若者はこぞって東京に向かおうとする。いくら「地元で活動して成果が出ないのであれば、東京に行ったところで成果は出せんよ。だってそうだろう、東京には一体いくつのバンドがいると思ってるんだ? 東京でベスト50のバンドになるより、今の地元でベスト3のバンドになる方が簡単だし、その方が価値は高い」と言ってみたところで、最初の問いかけを頭に思い浮かべた瞬間から、若い地方バンドは東京に行くことを前提に動き始めてしまっている。別にバンドでなくとも、きっとそれは同じことなのだろう。そうして東京に行ってしまって、当初の目的は果たせなくとも、東京には隙間のような場所がそこここに散らばっていて、なぜここに来たのかさえ思い出せなくなってしまった元若者がなんとなく人生を重ねていくことも可能にしてしまう。真夜中でも煌々と窓を輝かせるビルを見上げると、そういう隙間にはまり込んだ魂の明滅のような気がしてならないことが時々ある。灯りがホッとさせるのは、そうかはまり込んでいるのは自分だけじゃないんだという安堵を感じさせるからなのかもしれません。京都に移って、たった2両しかない電車がガタゴト走る沿線に暮らすようになると、16両も連なった電車が次から次にホームに滑り込み、そのどの車両もが人で一杯でグルグルグルグル回っている光景が、あれは何の夢だったんだろうと思えるようになってしまうのです。どちらがどうで、もう一方がどうなのだなんて、簡単には言えないのだけれども。
 モアイズユーという大阪のバンドが、東京に向かう電車のことをタイトルにして歌う歌に、別れを覚悟してまでも何故人は東京に向かうんだろうという切ない疑問を、また思い出さされてしまった。
(2017.4.4) (レビュアー:大島栄二)
 


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