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CAETANO VELOSO
『Os Passistas』

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 今夏はリオ五輪で盛り上がったが、その波を受けてか、ブラジルの伝説的たる歌手、カエターノ・ヴェローゾが11年振りに来日し、観に行った。(注:正式には単独来日という訳ではなく、フィメール・サンバ歌手のテレーザ・クリスチーナの連名でのもの)。

 翻るに、もう11年前になってしまうのだが、2005年の大阪の改装前のフェスティバル・ホールの公演はアメリカン・ソングのルーツ・カバーアルバムを主体にした艶美なステージが懐かしくも、今回のライヴは総花的に珍しい曲をふくめ熱量の高いものを魅せてくれた。ジョアン(・ジルベルト)の初来日のときも感動したが、このたびのカエターノのライヴ・パフォーマンスのエレガンスと獰猛さには心底、感服した。偶さか、ボブ・ディランがノーベル文学賞を取ったことで巷間は話題になっており、それに対して個々の考えがあると思うが、筆者として、極北の詩人としてディランが文学の中に、歌とともに認知されたという気持ちが先走る。それ以上の解釈はもっていない。しかし、熱帯の悲しみ、郷愁、と狂騒をあのセンシティヴな声で伝えられることができる歌い手が居る時代に今も共時性をもてることは誇りに思えるステージだった。

 トロピカリア時代の曲がこの2016年に、日本に聞けるというのもまた味な演出で、ともに、彼の気骨の先に見える世界の平穏なバランスが軋んできている前夜にまだ咆哮続ける姿勢にも感銘を受けた。05年の来日記念盤ともいえるベスト・コンピレーション盤とともに、アーティストが選んだ『Caetano Lovers』という作品では、選者にオレンジペコー、KIRINJIの堀込高樹、アン・サリー、小山田圭吾、ゴンチチなど錚々たる面々が並び、その後においてもカエターノの活動はワールドワイドのこの日本にも届き、息子のモレーノ含め、確実に再発見され続けてきた。

 だからこそ、現今は聴き放題のサービスが定着しつつあるものの、彼の年代ごとのアルバムをときに時代背景を踏まえ、聴いてみる時間も持ってほしいとも思い改めさせられるライヴでもあった。ロンドン亡命時に英語で吹き込んだ『イン・ロンドン』の切なさ、97年前後のオルタナティヴなロック・シーン、レディオヘッド、ベック、オアシス、ケミカル・ブラザーズなどの充実作が並んでいたときにかなりの日本人にも届いただろう佳作『イン・リーヴロ』の多様さ(今回、そこからの一曲を選んだ)、そこらから気付かされる「何か」はあるはずでポルトガル語が分からなくても、対訳から、メロディー、声から伝わってくる機微があると思う。

 しなやかな反骨精神と優しい獰猛な知性、その二律背反性を色彩豊かに翔るカエターノ・ヴェローゾというアーティストの出会いに早いも遅いもない。
(2016.10.18) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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