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700レビューを超えて



北沢東京氏〜音楽を面白がる天才〜

 北沢東京さんは旧い知り合いで、このmusiplを始める時にまず「レビュアーをお願いしたい」と思っていました。何故なら、音楽を含め、文化というものと個人との関わり方について独自の視点を持っていて、なおかつユニークだからです。多くの人は音楽を純粋に評価する物差しを持っていないのではないかと僕は考えていて、だから、チャートとか、売れ筋とかという物差しがどうしても必要になってくる。しかし今のようにチャートにジャニーズとAKBとEXILEしか出てこないようになってしまったら、もう何を聴いていいのか本当にわからなくなってしまう。それも音楽が全体的に沈んでいる感じになっている大きな原因だと思うわけです。でも、音楽というのは本当は面白いものなのです。それを情報や数字をできるだけ排して「自分はこういう点がこの曲を面白いと思う理由なんです。他の人がどう思うかなんて、知らん」という、極めて個人的な独白をレビューにすることで、「音楽の面白がり方」をみんなに知ってもらえればなあと、まあそれがmusiplというサイトの意義なんだと思っているわけです。その点、北沢東京さんは音楽を面白がる天才で、毎回ユニークな選曲と文章が僕の胸を打ち抜いています。そうでしょ、見てくれている人もそう思うでしょ?

 それでは北沢東京さんのレビューから、いくつか振り返ってみましょう。



吉澤嘉代子『未成年の主張』

 レビューを見ても何年何月のものかが記載されてなくて、でもmusiplでの19番目のレビューで、かなり初期のものです。北沢東京さんの最初のレビューで、当時はまだメジャーデビューも決まってなかった吉澤嘉代子のアマチュア時代のリリックビデオ。新鮮でしたね。吉澤嘉代子の「声でなく、歌い方のそのまた根本の、口の中が大好きだ」と宣言してしまう。そんな聴き方見方妄想の仕方は考えたこともありません。でも、考えてみるとこの口の中っていいよねと素直に思える。ファンになれる。そんな口の中を持っているのは吉澤嘉代子しかいないだろうし、そんな切り口で好きにさせちゃえばもうこっちのもんだって感じですよね。問題は、そんな好きになり方が出来る人はそんなにいないということでしょうけれども。だからこそ、このレビューは貴重だなあと思ったのです。



北村早樹子『マイハッピーお葬式』

 この倒錯したハッピーの姿を歌にした北村早樹子の曲を通じて、このハッピーへの妄想がいかに妄想であるのか、その妄想力こそが生きる勇気になり得るかを、文章で説明できる北沢東京さんの分析力と表現力。脱帽します。この怪しげなシンガーのレビューを掲載してしばらくして、僕の近くの本屋で彼女のライブがあって、行きたいな、見てみたいなと思いつつも勇気が無くて行きませんでしたごめんなさい。つい先日彼女がテレビに出てて、ライブで客が引くみたいな話をしてて、その中で「大雪の日のライブで客が1人しかいなかった」と話していたのですが、その1人が北沢東京さんだったということを後で聞き、ああ、この人はすごいなあと改めて思い知りました。



0.8秒と衝撃。『ARISHIMA MACHINE GUN///』

 曲のレビューをするというのはその音楽の何を語るかという視点そのものなのですけれど、商業評論家の場合はたいていレコード会社や事務所からの資料に基づいて語ります。だからどの評論を見ても同じようなものになってしまうのですけど、北沢東京さんはそんな資料なんてどうでもよくて(というか貰ってないし…)、ここではミュージシャンがその曲を作ろうと思った初期衝動に自分を憑依させて、音楽を発想して紡ぎ上げるのと同じ方法論で文章を書き上げています。多分ですけど。そういう意味で、このレビューはアートだし、こういうレビューにさせてくれる音楽そのものが、やはりアートでなければ釣り合わないし成立しないので、ここでチョイスされた曲とレビュアーの間には、幸せなせめぎ合いがあるのだなあと感心します。ええ、多分ですけど。



コレサワ『君のバンド』

 このチープキュートな歌とビデオ、いっぺんに持っていかれましたね。この曲の冒頭で「あたしの好きな映画は園子温の「恋の罪」」という詩があって、なんかそこにウケました。北沢東京さんが「園子温好きをはじめに公言してくれる人には、映画の話題どこまで話していいのかなっていうボーダーラインが早くに分かってホント助かる」と書いているのがすべてだなあと思ったりします。ええ、僕は個人的な理由で園子温好きじゃなくて、それはまだ彼がアマチュア時代のPFFでの僕が観客審査員をやったというまたマニアックなエピソードによるわけですが、だから僕の世代で園子温を好き嫌いというよりも知っている人がかなり少なくて、北沢東京さんの世代では園子温はリトマス試験紙的な存在として広く認められる立場なのかもしれません。ええ、レビューのこととは逸れてしまいましたね、失礼しました。




夜鍋太郎氏〜洋楽ファンの視点から〜

 
 

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