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森山直太朗『どこもかしこも駐車場 feat.ハナレグミ』
【この異様な状況下の今を軽やかに乗り切ろうとしている様子が感じられる】

ウケる。タイトルの「どこもかしこも駐車場」というフレーズをただ繰り返すばかり。日本でも歌唱力表現力があると一定の評価があるはずの森山直太朗とハナレグミ永積タカシの2人がこのバラードを情緒たっぷりに歌い上げる。この動画が公開されているのは「森山直太朗のにっぽん百歌」というチャンネルで、2021年の元旦に最初の動画がアップされている。彼なりのユーチューバーデビューということか、コロナで音楽活動がかなり制限された中、日本各地から歌を届けるという趣旨のようで、ライブか音源かという決まりきった旧来の活動からは離れた自由さがとてもいい。プロだからそこからどう収益をあげるかということは課題としてあるのだろうが、リスナーから見ればそんなに大きな課題でもなく、ただただこうして歌を聴ければそれで楽しかったりする。まずは、そこが第一歩でいいんじゃないだろうか。で、このユニークな歌。別に即興でユニークな歌を歌っているわけではなくて、2013年にリリースされた『自由の限界』というアルバムに収録されている彼の既存曲。当時公開されたMVは今もYouTubeにあって、それを見るとアレンジも軽めとはいえバンドサウンドになっていて、本気を感じる。本当の熱唱。いやそりゃそうだよね、売り物の音楽だし。声にもリバーブ的なエフェクトがちゃんとかかってて、響く。動画も公園で歌う森山直太朗が徐々に年老いていくという特殊効果が施されてて、やっぱり本気。それに比べてこのハナレグミ永積との一発録りバージョンはこのロケ地の雑音まで入ってるんじゃないかというくらいの空気感で、めっちゃリアル。ただ、2人ともマイクと口の距離がかなり離れてて、本当に現地で歌ってんのかと疑心暗鬼にもなるけれど、歌唱力で高明な2人だから、まあこのくらいマイクから離れてても大丈夫なのだろう、というか、このくらい離れてないと適正な音量にならないくらいなのか。よく判らない。最近多い、マイクをなめながら歌ってるようなシンガーに爪の垢を煎じて飲ませたくなる。まあそれはともかく。こうやって力を抜いてリラックスしたというか、テキトーに歌ってるというか、このバージョンがめっちゃ好き。1分30秒あたりで「こんなに無くてもいいのにね」の歌詞の後で「そうだよね」と直太朗が言う。オリジナルには無いアドリブだ。2人で歌っているから故の声かけだったのかもしれないが、このアドリブが曲全体を引き締め、リアルにさせている。この曲はバブル崩壊以降長いこと土地に建物を建てられず、かといって空き地にしておくのももったいないから、いざというときに更地にしやすい駐車場として運用するという、不動産的な事情からどんどん増えていった駐車場ばかりの状況をユーモアたっぷりに皮肉ったような歌だと勝手に解釈しているが、それをオリジナルバージョンのようにマジ熱唱することで、ユーモアなのかどうかよく判らなくなっていたような気がする。いや、オリジナルだけ聴いている分にはそれでもリアルユーモアと感じていたんだけれど、こうしてマジモードが薄れた、肩の力が抜けたバージョンを聴くと、ああ、この力の抜け方こそこの曲に必要なものだったんだなあとやっと理解できた。そしてこの肩の力が抜けたバージョンだからこその、この駐車場だらけという光景のバカバカしさと、それを歌にしてみせる森山直太朗の視点の鋭さユニークさが際立ったような気がしたし、あらためて、こりゃ名曲だよなあと感心させてくれた。

このセルフカバー動画公開の2日後には『最悪な春』というタイトルの新曲MVが公開されていて、その冒頭で最悪な状況を象徴するシーンとして、自転車全部が横倒しになっている駐輪場が出てきてて、関係ないのかもしれないけれど、この『どこもかしこも駐車場』からひと続きになっているのかなあと思った。公式MVの他にこの曲を安藤サクラの歌詞朗読とセットになったセルフカバーバージョンも2つ公開されていて、そちらも併せて観て聴くと、森山直太朗がこの異様な状況下の今を軽やかに乗り切ろうとしている様子が感じられて、こちらの気分までちょっと軽くなれる。

(2021.5.8) (レビュアー:大島栄二)


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