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Vampire Weekend『120 Minutes of Harmony Hall Guitars』【反復の中に重なる瞑想、枯山水のような風情】

ヴァンパイア・ウィークエンドはデビュー当時から知的でエリートなところを持ちながら、どこか実験者たる風情もあったが、その印象とは別にあっという間に00年代後半10年代前半のUSインディーシーンを代表するバンドになってしまった。ブルックリン・シーンの趨勢とともに、MGMTやダーティ・プロジェクターズ、アニマル・コレクティヴなどと。セカンドの『コントラ』も手堅い内容で、しかし、サード・アルバム後は称賛は大きくも、活動そのものやリリースも何かと拗れていた様相がある。それでも、都度の報は入ってきていた。いつかのブルックリン・シーンどころか目まぐるしい地殻変動の中で、彼らも孤高のような存在になってゆき、ライヴやその場での新曲披露のたびに、囲い込む期待やSNSやファンやメディアの声が大きくも、漸く衒いなく6年ぶりとなる新曲が彼らから届き、これからもじわじわと届きだすだろう。

「2021」での細野晴臣の80年代の無印食品で流す音楽のサンプルを用いたなどのネタも話題になっているが、圧倒的に「Harmony Hall」のオルタナティヴなシーンへとあらためて戻ってきたような彼ららしい実験性とポップネスを煮込んだ色艶が堪らない。ヘヴィーでありながらどこかスムース。エズラの声に、ピアノ、ギターをメインに連節、変容しながら紡がれてゆく。原曲よりも、事前に発表された120分の「Harmony Hall Guitars」の揺蕩いが今の彼ら、これまでの空白の彼らをより雄弁に語ってくれている気がする。「A-Punk」、「Cousins」のようなその場を無邪気に揚げてくれるポップ・パンクな曲も醍醐味のひとつだが、深く創作に潜りながら、確かめてゆくように不器用なまでに自分自身たちの鳴らしたい音を求めてゆく過程での「Harmony Hall」の事前たるロング・ヴァージョンは美しい。

ヴァンパイア・ウイークエンドが戻ってくるという事態を別にしても、特異なバンドはフォーメーションを変えながらでもやはりどこか探求心の向くままに進む。反復の中に重なる瞑想、枯山水のような風情のこの2時間ほども聴いていられるのが彼らの風趣なのだと思う。待つ愉しみとともに。

(2019.2.19) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))


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review, 松浦達

Posted by musipl