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植田真梨恵『Stranger』【選んできたチョイスが間違ってたとして、今ここが今日の通過地点】

アーチストにはそれぞれスタイルというか型というものがあって、リスナーはそれをそのアーチストが本来持っていた固有の素養と思いがちだが、音楽がけっしてひとりではビジネスになり得ないこと、しかも若くてビジネス経験の浅いアーチストがビジネスとしての音楽世界に入っていく時、固有の素養をそのまま押し出していけることは稀なこと。アーチストなんだから自分の表現を曲げたらダメだろうというのは簡単だが、じゃあ自分が新入社員として職場に入った時に先輩社員や社長にたてつけるのかということを、高校の運動部に入部した時に自分独自の練習方法を主張することができるのかということを、考えてみればすぐにわかること。そんな自己主張はほとんど通用しない。じゃあやらなくていいよ、明日から来なくていいよと言われてオシマイだ。だからそのビジネスの先達たちの想い描くビジネス的に「正しい」型に自分を当てはめるしか、音楽ビジネスの世界に入っていく方法はない。

植田真梨恵のレビューを最初に掲載したのは2014年のこと。『彼に守ってほしい10のこと』という曲は若手女性シンガーが歌いそうなポップ路線まっしぐらな曲だった。レビューをした松浦氏の難解な文意とは裏腹に彼女の曲は明快だった。明快に女性目線のラブソングをわかりやすいポップサウンドに載せて歌っていた。MVもカラフルだった。わかりやすかった。どういうリスナーをターゲットにしようとしているのかがわかりやすくて、ああ、もしかすると短期間で埋没するかもしれないと、6年前の僕は思っていた。

しかしそんなに簡単には事は進まなかったのかもしれない。この曲を聴くと、当時の表現とはかなり違うというのがわかる。2014年のメジャーデビュー曲以降もシングルとしてリリースしてきた数曲はほぼ同じ路線で進んできた。しかし、彼女のYouTubeチャンネルにある2015年初頭のライブ動画『優しい悪魔』で見せている表情は当時のシングル曲やそのMVとはまったく違って、複雑な心理を歌と表情でパフォーマンスしている。もちろんひとりのアーチストの曲調がすべてまったく同じというわけにもいかないし、ポップで乗れるナンバーもしっとりとしたバラードも同時に存在するのは当たり前だ。しかしそのライブ曲に込められた彼女の葛藤や抵抗のようなものが滲み出ていて、ああ、凄いなと今さらながらに感じる。

この『Stranger』の冒頭で何かのインタビューの形で彼女の言葉が聞こえてくる。「ここからまた変わっていくことの決意みたいなのを。」「そうですね。」そういう変わっていく決意みたいなものがこの曲にも漲っている。

  選んできたチョイスが間違ってたとして
  今ここが今日の通過地点

スタート地点でロックシンガーという型を与えられた人、ポップシンガーという方を与えられた人、アイドルという型を与えられた人。その最初の型に何の疑問も持たずに進んでいける人はラッキーだし、疑問も持たずに心から楽しくその型を身に纏っていける人の中から成功する人は現れていくのだろう。しかしその型に疑問や違和感を感じてしまったら、どこかで抗わなければ、たとえ成功したとしてもその成功は違和感のまっただ中という地獄だ。彼女は、その大小は別としてもいくつかの違和感の中で抗ってきたのだろう。その中で小さな成功をつかみ、その成功を足掛かりに自分の本来の表現を主張していく術を得ていった、その先にあったのがこの曲のように感じられる。もちろんそれが最終地点なのではなく、通過地点として彼女の理想に向けて今も闘っているに違いない。こういうアーチストの闘いのその先を、密かに定点観測し続けていきたい。

(2020.4.14) (レビュアー:大島栄二)


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Posted by musipl