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ピロカルピン『ピノキオ』
【宗教の経典のような、突き抜けた先の希望】

ピロカルピンの新譜本当に良いな。アルバム『ノームの世界』からのMV「ピノキオ」と「グローイングローイン」はいずれもピロカルピン独特の淡白なポップサウンドに、苦境の中からの希望が歌われている。苦しいことを苦しいというのはもちろん良いのだが、その度毎に苦しい顔をしていては浮かばれないしつまらない。だから顔を上げて笑顔をたたえようとしても、じゃあ笑顔ってどうやって作ればいいんだろうか。これらの曲はそういう迷いに対する答えになるのではないだろうか。MVとして公開されている曲以外は、比較的直接的な希望が歌われているというよりも不思議空間と現実空間の境目を表現したファンタジー的な雰囲気を持っている。トータルして通して聴くと、独特の淡々とした歌唱と併せて、異世界への入口を感じさせる。異世界が描かれるとき通常は不安な気持ちを掻き立てられるものだが、何故だか明るい期待のようなものが心に湧いてくる。現実の世界が不安に満ちているから異世界に希望を感じるのだと言えば言い過ぎだろうか。その感覚は宗教の経典のようなものにも似ていて、仏教ならば現世の苦しみから解放された死後の世界は極楽黄土という世界が描かれていたりする。そう考えれば、松木智恵子の淡々としたトーンはお経を読んでいるような錯覚にも陥るし、そういえば2年前にmusiplでも紹介した「箱庭の世界」ではお寺の本堂で撮影されていた。原色のライティングを浴びた祭壇の怪しげな光景の前で淡々と奏でる彼らの姿は、求道者のそれのようにも感じられ興味深い。その時は悩みながらも道は続くということだったが、今作ではその先にある希望に到達したような印象で、一つのアーチストを聴き続けるというのは面白いことだなと改めて感じた。

(2017.7.15) (レビュアー:大島栄二)


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review, ピロカルピン, 大島栄二

Posted by musipl