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tiny little charm『プロローグ』【人は何度だって新たなスタートに立っていいんだ】

リバーブが強めにかけられたアコースティックギターの演奏に、さほどエフェクトを施されていないボーカルが素に近い状態で中央に立たされている。それなりの音量で楽器が鳴るからアンバランスではないものの、ボーカルだけが目の前で歌っているようで、少しばかり孤独感を味わえるようにも聴こえる。この歌とより真摯に対面しなければという気持ちにさせられる。

歌われるのは、絶望の後の希望のようなもの。YouTubeの説明欄には「春の色が違って見えても、ふりだしに戻っても、次の一歩はきっと違う。きっと高く飛べるはず。そんなことを歌いました。」とある。それは歌詞の中にもちゃんと歌われていることだ。そこでひっかかるのは曲のタイトルだ。『プロローグ』というタイトルの曲だけど、アルバムの中では最後の曲順に収録されている。普通なら、『プロローグ』というタイトルの曲は最初の曲順に収録されるもの。そのアルバムの全体を代表するような雰囲気を生み出すような曲としてまず最初に聴いてもらうための曲になる。しかしこの『プロローグ』はアルバムの最後に収録されている。

なので、アルバムを通して聴いてみる。伝わってくる印象は、愛するというには一歩手前の相手のことをすべて受け入れた心情。たとえ自分を否定するという判断さえも肯定するような究極の愛情。哀しい。だがそんな心情を淡々と、時にアップテンポに、時に男女混声ツインボーカルで、歌っている。そして、この『プロローグ』だ。エピローグではないプロローグが最後に配置されている。これは要するにこのアルバムにあるストーリーの前ぶれとしてあるのではなく、このアルバム全体に描かれたストーリーが一旦終わりを迎えるけれど、そこからまた次のストーリーが立ち上がっていくんだよという決意表明のようなものなのだろう。力強い。それは曲の中央に素のまま立たされたボーカルが、やわらかなメロディと演奏を背景にして、最初は淡々と歌い始めるものの、彼女なりの強さでサビ以降シャウトしていく力強さにも通じるもので、ああ、人は何度だって新たなスタートに立っていいんだという気持ちにさせられる。

(2020.7.23) (レビュアー:大島栄二)


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review, 大島栄二

Posted by musipl